銀河中心の重すぎるブラックホール

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【2012年6月15日 NASA

銀河の中心で恒星が集まる「バルジ部」と、そのさらに中心にある超大質量ブラックホールは共に成長すると考えられてきたが、ブラックホールの成長だけが異様に速い銀河が見つかった。NASAのX線天文衛星「チャンドラ」の観測により外部要因の可能性が除外されたことで判明したものだ。


銀河の外観図

銀河の外観図。銀河円盤の中心にある膨らみが「バルジ」で、その中心には超巨大質量ブラックホールがある。全体を球状に包むのが「ハロー」と呼ばれる部分。例はM104「ソンブレロ銀河」(提供:NASA/Hubble Heritage Team)

NGC4342とNGC4291

「チャンドラ」が観測したNGC 4342(左)とNGC 4291(右)。X線画像と赤外線画像を合成している。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/SAO/A.Bogdan et al(X線); 2MASS/UMass/IPAC-Caltech/ NASA/NSF(赤外線))

天の川銀河など多くの銀河の中心にあるブラックホールの質量は、バルジ部に含まれる天体の総質量の約0.2%程度というのが一般的だ。だが銀河NGC 4342(おとめ座)とNGC 4291(りゅう座)の中心ブラックホールは、そういった典型的な質量の10倍から35倍もの質量がある。

2つの銀河は約7500万光年と約8500万光年の距離にあり、銀河としては近い部類だ。これらの銀河の中心ブラックホールが銀河自体と比較して重いことは以前から知られていたが、その理由については、かつて接近してきた別の銀河の重力で一部の恒星が引き剥がされたことも考えられた。

「潮汐力による引き剥がし」と呼ばれるこの現象が起こったなら、恒星だけではなく、銀河を囲むダークマター(暗黒物質)のハローも引き剥がされてしまうはずだ。ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのAkos Bogdan氏らは、X線天文衛星「チャンドラ」を用いて銀河のハローの量を探った。銀河周囲の高温ガスが発するX線から銀河内の重力の働きを推測して、ダークマター・ハローについての情報を得る。その結果、高温ガスがNGC 4342とNGC 4291の周りに広く分布しており、非常に多くのダークマター・ハローが存在することが確かめられた。これでは、潮汐力による引き剥がしはありえない。

「近傍の宇宙に銀河自体より速い速度で成長するブラックホールが存在するという、非常に明確な証拠です。銀河同士の接近が原因ではなく、銀河成長を遅らせる別の要素があったのです」(同センターのBill Forman氏)。

どうして銀河中心ブラックホールが銀河全体より速く成長できるのか。研究チームによれば、ブラックホールの成長の初期段階で、銀河中心をゆっくり回っていた大量のガスが供給されたことが考えられる。その後、ブラックホールが成長すればするほど、成長の速度も速くなり、引き寄せて飲み込めるガスの量も大きくなる。そうなると強いジェットが放射され、新しい星の生成を邪魔したのだという。

「超大質量ブラックホールが銀河の星より先に巨大サイズになってしまえば、十分有り得る話です。銀河とブラックホールの進化の関連性について、これまでの考えを一変するものとなりました」(Forman氏)。