タイタンの内部に海?
【2012年7月2日 NASA】
NASAの探査機「カッシーニ」の観測から、土星の衛星タイタンの内部に液体の水の層があるらしいことがわかった。土星の重力によるタイタンの収縮・膨張から判明したものだ。
土星に近づいたときの衛星タイタンは、球形ではなく、土星方向に少し伸びたラグビーボールのような形になる。その後、公転軌道上を半周して土星から遠くなったときのタイタンは、より球形に近づく。タイタンの公転周期はたった16日なので、「固体潮汐」と呼ばれるこのような変化が8日間で起こる。
ちなみに地球の場合、月と太陽による重力が海水面を引き上げていて、外洋では最高60cmも引き上げられる。また同様に、地殻にも約50cmの固体潮汐が起こっている。
ローマ・ラ・サピエンツァ大学のLuciano Iess氏らは、探査機「カッシーニ」を使ってタイタンの固体潮汐を調べた。もしタイタンが岩石だけでできているなら、土星の重力は1m程度の固体潮汐を引き起こす。だが、2006年2月から2011年2月までの6回にわたり接近観測したデータによると、タイタンの固体潮汐は約10mにも及んだ。これは、タイタンを構成するものが岩石だけではないことを示している。
「タイタンに働く土星の潮汐力は、木星の衛星に働く潮汐力に比べられるほどではありません。とても精密な測定だったのです。この重力測定によって我々は掘削することなく、タイタンの内部構造の詳細なデータを得ることができました」(NASAジェット推進研究所のSami Asmar氏)。
観測されたような潮汐が起こるには、内部の海がそれほど大きかったり深かったりする必要はない。変形しやすい外部層と固体マントルの間に液体の層があれば、それでタイタンは土星を公転しながら膨張と収縮をすることができるからだ。また、太陽系のほとんどの衛星と同様、タイタンの表面も主に氷でできているので、内部の海もほとんど液体の水であると考えられる。
しかし、タイタンの表面下に液体の層が存在していても、それが生命の存在を示唆しているとは限らない。生命は岩石と接している液体水の中で発生すると考えられているからだ。今回の測定法では海底が岩石なのか氷なのかは判断できない。
今回の結果はタイタンのメタン補充機構の謎と密接に関係している。液体水の海にアンモニアが溶けると、アンモニア水が浮力で上昇する。上昇したアンモニア水が地殻を通過する過程で泡が発生し、その泡が地殻の氷からメタンを発生させる。このようにして、液体メタンが溜まった深い貯水池を作ることもできると考えられている。
「タイタンが持っている特徴は全て大量のメタンの存在によるものです。なのに、大気中のメタンは不安定で、短期間の間になくなってしまう。タイタンの内部にメタンが貯蔵されたプロセス、そこからメタンガスが地表に噴出するプロセスを解明することにおいて、今回タイタンで見つかった液体水の層は重要な鍵となるでしょう」(米コーネル大学のJonathan Lunine氏)。