すばる望遠鏡、現在の楕円銀河が爆発的に生まれ急成長する大集団を発見

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【2012年9月3日 すばる望遠鏡

すばる望遠鏡による観測で、110億光年の彼方に成長期の原始銀河団が発見された。銀河団を構成する銀河の中には、私たちが住む現在の天の川銀河の100倍もの勢いで星形成が進んでいるものも多数見つかった。


原始銀河団で最も銀河が群れている領域の近赤外線擬似カラー画像

画像1:原始銀河団で最も銀河が群れている領域(画像3の領域2に相当)の近赤外線擬似カラー画像。クリックで拡大(提供:国立天文台、以下同)

狭帯域フィルター画像

画像2:連続光フィルター(Ks-band)と狭帯域フィルター(Narrow-band)で撮影した同じ領域の画像を交互に表示させたアニメーション。丸で囲まれた天体が狭帯域フィルターの画像で非常に明るく見えている。クリックで拡大

原始銀河団の俯瞰図

画像3:横軸は赤経、縦軸は赤緯を表し、原点は電波銀河USS 1558-003の位置。黒の点はこの視野に写っている全ての銀河。マゼンタ色の丸は年老いた銀河。四角はHα輝線を出す星形成銀河であり、特に赤い四角は「赤く燃ゆる銀河」を表している。灰色の円は三つの銀河大集団の領域を示している。クリックで拡大

宇宙では無数の銀河が大規模な構造を成して存在している。銀河が非常に群れている銀河団や銀河群と呼ばれる領域がある一方で、孤立した銀河がぽつぽつと点在するだけのフィールド領域と呼ばれる場所もある。現在の宇宙では、フィールド領域には恒星を活発に作っている渦巻銀河が多いのに対して、銀河団領域には、年齢が古くて、既に新しく恒星を作ることを止めた楕円銀河が群れている。この明確な銀河の棲み分けは、どのようにして起こったのだろうか。それを知るためには、遠方宇宙に存在する原始銀河団を理解する必要がある。

国立天文台の林将央研究員、児玉忠恭准教授を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された近赤外線多天体撮像分光装置(MOIRCS)とHα輝線の狭帯域フィルターを用いて、110億光年彼方の、成長期まっただ中の原始銀河団「USS 1558-003」を観測した。最近の研究から約90〜110億年前の時代は銀河が最も激しく成長していることが明らかになってきており、いま世界中の研究者が最も注目している時代の一つだ。

この原始銀河団には赤い色をした年老いた銀河が群れていることが知られており、今回の研究で大小3つの銀河集団から成ることが明らかになった(画像3)。これらの集団における銀河の密集度合いは、同じ時代の一般フィールド領域と比べて約15倍にもなる。特に南西方向に存在する「領域2」は、天の川銀河やアンドロメダ銀河などが属する局所銀河群に大マゼラン雲クラス以上の銀河がなんと約100個も存在するのに相当する高密度だ。110億光年の彼方にこれほど銀河が密集している領域が見つかったのは今回が初めてである。これらの3つの銀河集団はお互いの重力で引き合ってやがて合体し、一つの大きな銀河団へと成長していくことが予想される。

しかも、その密集地帯に存在する銀河の多くは、爆発的に恒星を作っている銀河だということもわかった。その勢いは猛烈で、天の川銀河の約50〜数百倍にもなる。さらに、この密集地帯に存在する銀河を全て集めると、毎年およそ太陽1万個分の質量に相当する量の恒星を生み出している。現在の宇宙では、銀河団はひっそりと余生を送る楕円銀河で占められているが、銀河がまだ非常に若く急速に成長している最中である太古の原始銀河団がついにとらえられたのだ。

もう一つの興味深い発見は、赤く燃ゆる銀河(年老いた銀河)が密集地帯の中心付近に存在する傾向があることだ。この赤く燃ゆる銀河はいわば「人生の過渡期」にあたる銀河である。このような銀河が高密度領域に存在していることは、この原始銀河団が今まさに成長段階にあり、銀河が周囲の銀河団という特殊環境から何らかの影響を受けていることを反映していると考えられる。研究チームは今後はさらに個々の銀河の性質を明らかにし、この現場で何が起こっているのかを解明することを目指したいという。

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