電波望遠鏡群で迫るブラックホールジェットの根元
【2012年9月28日 国立天文台】
国立天文台の研究者を含む国際共同グループが、銀河中心のブラックホールから噴き出すジェットの根元の大きさを初めて測定し、ジェットの形成・放出にブラックホールの回転が関わっている可能性を明らかにした。ブラックホール半径の数倍程度という非常に近い領域を観測した画期的な成果だ。
天の川銀河を含め、宇宙に無数に存在する銀河の多くには、その中心に超巨大質量ブラックホールがある。その中でも活動性の高いものは、最大で光速の99%まで加速されたプラズマ粒子の非常に細いジェットを噴出している。だが、ジェットがブラックホールの近くからどのようにして放出・加速されるかはまだ詳しく解明されていない。
おとめ座の方向約6300万光年かなたにあるM87銀河は、そのような高速ジェットを噴出するブラックホールを持つ銀河としては最も近くにあり、ジェットの放出・形成を調べる格好の対象となっている。その中心にあるブラックホールの質量は、太陽の約62億倍だ。
国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹(ほんままれき)准教授、小山友明(おやまともあき)専門研究職員らによる今回の研究では、アメリカの離れた3か所にある電波望遠鏡のデータをVLBI(超長基線電波干渉計)という技術で合成し、巨大望遠鏡に匹敵する解像度でM87のブラックホールに迫った。これまで技術的に難しかった1.3mmという短波長の電波で観測することで、よりブラックホールに近いジェットの根元まで見通すことが可能となったのだ。
観測の結果、ブラックホールのジェットの根元の大きさがブラックホール半径の5.5倍であるという結果が得られた。この大きさは、ブラックホールが回転していない場合に予測される数値(ブラックホール半径の7倍)よりやや小さいことから、回転するブラックホールであることが推測される。またこの値は、より長い波長で見たジェットの大きさや、電磁流体力学の理論に基づく予測ともよく合致している。
ブラックホール半径の数倍程度の領域に肉薄した今回の研究は、ジェットの形成・放出にブラックホールの回転や磁場が関わっている可能性を示唆するものだ。今後このプロジェクトでは、アルマ望遠鏡など高感度の電波望遠鏡を追加することで観測網をさらに拡張し、ブラックホールの直接撮像やジェットの放射・加速機構のさらなる解明を目指す。