すばるで挑戦 100億光年かなたの天体を立体視
【2013年2月20日 すばる望遠鏡】
国内の共同研究チームが天体の重力で光が屈折する「重力レンズ効果」を利用し、およそ100億光年彼方にあるクエーサーからのガス流出の異なる2つの像をとらえた。別の角度からの観測と考えれば、立体的な構造が見えるかもしれない。
宇宙に存在する銀河の中には、銀河全体の100倍以上もの明るさで輝く中心核を持つものがあり、クエーサーと呼ばれている。銀河中心には巨大質量ブラックホールとその周囲のガス円盤があり、これが輝いて見えるのがその正体とみられている。
円盤の表面からは外向きのガスが吹き出していると考えられる(画像1枚目)。このガスの流れ(アウトフロー)は周囲の宇宙空間にも大きな影響を与える重要な現象だが、はるか遠方に存在するので内部構造を詳しく調べることは難しい。
しし座の方向約100億光年の距離にあるクエーサー「SDSS J1029+2623」の手前には、約50億光年かなたの銀河団がある。クエーサーから届く光は、この銀河団の強い重力を受けて進路が大きく歪められ、クエーサーの姿は最大離角が22.5秒角の3つの像A、B、Cとして地球に届く。
それぞれの像から、クエーサーのアウトフローを別の角度から見た姿がわかるかもしれない。この可能性を調べるため、信州大学、奈良高専、国立天文台、東京大学カブリIPMUの共同研究グループは、すばる望遠鏡でクエーサーの比較的明るいレンズ像AとBの分光観測を行った。その結果、2つの像に見られるアウトフローによる光の吸収の形が、一部明らかに異なることがわかった。異なる角度からのアウトフローの観測に成功したということだ。
わずか22.5秒角の離角にもかかわらず、こうした違いがみられたのは驚きの結果だという。
「今回観測したアウトフローは最大で秒速1600kmものスピードで噴き出していて、またその内部には0.1光年程度のスケールでガスの濃淡が存在することがわかりました。このようにアウトフローの内部は一様ではなく、うろこ雲のように小さな塊が大量に集まったものなのかもしれません。それを確認するためにも、今後は今回観測しなかったレンズ像Cについても詳しく調べていく予定です」(信州大学の三澤透さん)。
ただし、今回の結果については別の解釈も可能だという。レンズ像AとBは光がたどる経路が異なるため、地球に届くタイミングに差が生じる。この場合、たとえ2つのレンズ像がアウトフローの同じ場所を通過していても、その内部の構造が時間とともに変化していれば今回のような結果が再現できる。この可能性については今年3月の追観測で検証が行われる予定だ。