最強クラスのブラックホールが作る、銀河サイズのガスの穴
【2014年1月24日 X線天文衛星チャンドラ】
39億光年彼方の銀河団の中心に、史上最強クラスのブラックホールの存在がとらえられた。太陽の10億倍以上の重さのブラックホールから噴き出す強力なジェットは、天の川銀河と同等サイズの巨大な空洞を作り、その衝撃で周囲のガスがあたためられている。
39億光年彼方の銀河団「RX J1532.9+3021」(RX J1532)の中心領域に広がる膨大な高温ガスを、X線天文衛星「チャンドラ」などが観測した。
通常は、銀河団中心でX線放射するような高温高密度のガスは冷えやすく、すぐに圧力が低下して銀河に吸い込まれ、爆発的に生まれる星の材料となるはずだ。だが、この中心領域ではそうした星形成の兆候は見られない。
2種類の観測から、その理由が見えてきた。この銀河団の中心には大きな楕円銀河が存在していて、その中心核にある巨大質量ブラックホールからは両極方向にジェットが噴出している(電波で観測)。このジェットが周囲の高温ガスにぶつかることで空洞部分を作って押し広げ(X線で観測)、その衝撃波がガスを加熱しているらしい。ガスが冷えなければ銀河に吸い込まれることもなく、したがって星が爆発的に生まれることもない。
幅10万光年という、天の川銀河がすっぽり収まるほどの巨大な空洞を作り出すジェットはひじょうに強力なものに違いない。こうしたブラックホールのジェットは、その強い重力で急激に物質が吸い込まれる反動で生成される。だがRX J1532中心の銀河では、通常X線で観測される物質の取り込みが見られなかった。これは、銀河中心核にあるブラックホールが極端に重いことを示している。太陽の100億倍以上の質量の場合、あるいは太陽の10億倍程度の質量でかつ高速で自転している場合には、物質をあまり飲み込まなくても強力なジェットを生成することができると考えられる。