太陽の外部コロナの構造
【2018年7月26日 NASA】
太陽からは電気を帯びた粒子の流れである太陽風が噴き出している。この太陽風の源は、太陽の周りに広がる100万度もの高温の大気で、外部コロナと呼ばれている部分である。
米・サウスウエスト研究所のCraig DeForestさんたちの研究チームは、NASAの太陽観測衛星「STEREO」を使って、この外部コロナの様子を詳しく調べることにした。
DeForestさんたちはまず、通常は行わないような長い露出時間の撮影を何度も繰り返し、コロナ内のかすかな情報をとらえることを試みた。さらに、データ処理や画像解析の方法を工夫して画像中のノイズを減らしたり太陽風の動きの影響を取り除いたりして、外部コロナを高解像度で見られるようにした。
試行錯誤の末に得られた高解像度の画像から、時間の経過とともにどのように外部コロナが変化するのかが示された。「可能な限りノイズを取り除いた結果、外部コロナが構造を成していることが確認できました」(DeForestさん)。外部コロナに構造が存在することそのものが、今回の研究の最大の発見だという。これまで外部コロナは、激しく変化する内部コロナとは異なり滑らかで一様なものだと考えられてきたが、この見方は単に、画像の解像度が十分ではなかったことが原因だったようだ。
また、コロナ・ストリーマー(ヘルメット・ストリーマー)と呼ばれる角のような明るい構造は無数の細かい構造が集まってできていることも明らかになった。
さらに、外部コロナの終わりと太陽風の始まりの境界は、薄い層のようなものではなく、幅のある帯のようなものであることもわかった。これまでは、太陽からある距離のところで太陽から逃げ出す物質の速度が急上昇し、物質が太陽風となって流れ出ていくと考えられてきたが、実際にはそうではないようだ。「はっきりとした境界というよりは、広い中間領域が存在していて、太陽風はその領域内で徐々に太陽から切り離されていくのです」(DeForestさん)。
もう一点、太陽半径の10倍付近のところだけ画像の相関が弱くなることも明らかになっている。原因は不明だが、何か興味深い物理現象が起こっているのだろう。ちょうどこの距離付近は、NASAが間もなく打ち上げ予定の太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ(Parker Solar Probe)」が調べる範囲にあたっている。太陽の外部コロナの内側から観測を行う初のミッションとなる同探査機による成果に期待がかかる。
〈参照〉
- NASA:Discovering Structure in the Outer Corona
- The Astrophysical Journal:The Highly Structured Outer Solar Corona 論文
〈関連リンク〉
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