小惑星ファエトンによる恒星食を観測して、フライバイ計画DESTINY+を支援しよう
【2019年7月31日 千葉工業大学 惑星探査研究センター】 8月19日更新
解説:DESTINY+サイエンス検討チーム
(「星ナビ」2019年9月号「Observer's NAVI」より抜粋)
小惑星ファエトン((3200) Phaethon、フェートンとも表記)は、ふたご座流星群の母天体です。1.4年の公転周期で黄道面から傾いた細長い楕円軌道を描いて回っています。近日点距離は水星より太陽に近く、遠日点では小惑星帯まで達し、1公転中にファエトンの表面温度が200~1000Kまで変化するという非常に特殊な環境下にあります。
ファエトンは普段は小惑星の顔をしていますが、近日点付近ではダストの放出が確認されており、活動的小惑星に分類される天体です。小惑星2005 UD(直径約1km)はファエトンから分裂したと考えられています。また、ファエトンは、小惑星帯にある太陽系最大の小惑星パラスから分裂した可能性もあります。
JAXAはこの興味深いファエトンの軌道に近づき、フライバイして近接撮像し、ファエトン周辺のダストや表面地形を調べるミッション「DESTINY+」(Demonstration and Experiment of Space Technology for INterplanetary voYage, Phaethon fLyby and dUst Science)を計画しています。このミッションを成功させるためには、実際に探査機による近接撮像が行われる前に地上から天体を詳しく観測することがとても重要です。
ファエトンは2017年12月に地球に接近し、この際に多くの観測が行われました。測光観測や分光観測からは自転周期(3.6時間)や分光型(B型)が精度よく求められました。また、アレシボ天文台のレーダー観測からはこの天体の3次元モデルが得られ、ファエトンがリュウグウやベンヌのような赤道一帯が盛り上がった形をしていることがわかりました。しかし、現在までの観測では表面の反射率がよくわかっていません。異なる観測から求められた天体サイズの推定誤差が大きいのです。
この天体の真の大きさと形を直接知る方法として、小惑星による恒星食の観測があります。ファエトンの推定直径は4~6kmと小さいため、これまでは恒星の掩蔽を観測することは困難でしたが、最近、位置天文衛星「ガイア」の観測によって恒星の位置精度が極めて高精度になり、恒星の掩蔽が観測可能なほどに予報の精度が向上しました。
ビデオレート(1/30秒)で観測してファエトンの大きさを10%の精度で求めるには、掩蔽の継続時間が0.3秒以上、5%の精度で求めるには0.6秒以上必要となります。7月29日にアメリカ西部で7等星の食が起こり、多数の観測成功が報じられました。
また、8月22日の明け方には日本でも12等星の食が起こると予報されており、注目されています。日本時間3時45分ごろに北海道の渡島半島(函館付近)で見られ、継続時間は最長0.5秒と推定されています。当初は青森県付近で見られると予想されていましたが、アメリカでの観測結果を踏まえて予報が改訂されました。
対象星はぎょしゃ座にあり、約12等級と暗いため、口径20cm以上の望遠鏡(できれば30cm級)を約20台並べてビデオ観測する必要があると考えられます。これだけの機材をそろえるためには、多くのアマチュア観測者の協力が必要です。
観測に協力いただける方は、サイエンス検討チームまで、ぜひご一報ください。合同観測への参加条件としては、掩蔽観測の経験があり、掩蔽観測機材一式(対象星が絶対時刻精度でビデオレートで撮影できることが望ましい)をお持ちの方です。詳しい予報(直前に修正される可能性があります)や観測計画、観測参加の条件等はメールでお問い合わせください。
〈参照〉
- 千葉工業大学 惑星探査研究センター:小惑星(3200)Phaethonによる恒星食の観測協力のお願い
- ファエトンによる恒星食の予報:
- IOTA (International Occultation Timing Association)
- 佐藤勲さん
- 早水勉さん
- いずれも、7月29日のアメリカでの観測結果を踏まえて改訂される可能性があります
〈関連リンク〉
- DESTINY+:
- アストロアーツ:
- 天体写真ギャラリー:小惑星ファエトン(2017年)
- 【特集】2018年 ふたご座流星群
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