減光とともに形も変わったベテルギウス
【2020年2月21日 ヨーロッパ南天天文台】
オリオン座の1等星ベテルギウスが昨年11月ごろから暗くなっている。通常時の明るさはV等級で0.5-0.6等だが、2月14日時点では約1.5-1.6等(V等級)と通常時の4割ほどにまで減光していて、肉眼で見てもオリオン座の印象がいつもと違うことに気づくほどだ(参照:「2等星に陥落!ベテルギウス減光のゆくえ」)。
ベルギー・ルーヴェン・カトリック大学のMiguel Montargèsさんを中心とする研究チームは、昨年12月からヨーロッパ南天天文台(ESO)のVLT望遠鏡(口径8.2m)を使ってベテルギウスの観測を行い、この星が暗くなった理由を明らかにしようとしている。同チームの観測キャンペーンで得られた最初のデータの一つとして、昨年12月にベテルギウスの表面を撮影した画像が公開された。これは4基あるVLTの望遠鏡の一つ「UT3」に搭載されている高分解能カメラ「SPHERE」で撮影されたものだ。
SPHEREは系外惑星を直接撮影することを主な目的として開発されたカメラで、大気による像のゆらぎを補正できる高性能の補償光学システムを搭載しており、その分解能は0.02秒角に達する。赤色超巨星であるベテルギウスの視直径は約0.05秒角なので、SPHEREを使えば、約700光年の距離にあるベテルギウスでも円盤状の像としてとらえることが十分に可能だ。
研究チームでは、減光が始まる前の2019年1月にも同じ装置でたまたまベテルギウスを撮影していた。そのおかげで、減光前後のベテルギウスの変化を見比べることができる。この画像は電離水素ガスが出す赤い光(Hα線)で撮影されていて、ベテルギウスの明るさだけでなく形にも変化が生じていることがわかる。
多くの天文ファンは、今回の減光が超新星爆発の前兆なのではないかと気にしている。ベテルギウスは他の赤色超巨星と同じく、いつかは超新星爆発を起こすはずだ。しかし天文学者たちは、今回の変化が超新星爆発の始まりだとは考えていない。
ベテルギウスの表面には巨大な「対流セル」が存在する。熱い味噌汁の表面に模様ができるのと同じように、星の上層部のガスが細胞状に分かれて対流する現象で、太陽では「粒状斑」と呼ばれている。こうした対流のパターンは時間とともに移動したり、収縮・膨張したりする。また、ベテルギウスは脈動変光星でもあり、周期的に星の直径が膨張・収縮することで光度が変わる。今回の減光はベテルギウスのこれらの活動に何か例外的な乱れが生じたために暗く見えているのでは、というのが、Montargèsさんたちの考える仮説の一つだ。
もう一つの仮説は、ベテルギウスの表面から地球の方向に塵が放出されたことで暗く見えている、というものだ。
「もちろん、私たちは赤色超巨星についてまだまだ完全に知っているわけではなく、こうした星について理解しつつある途中の段階です。ですから、何か驚くべき現象が起こっている可能性もありえます」(Montargèsさん)。
昨年12月にはVLTの赤外線撮像分光装置「VISIR」でもベテルギウスの新たな画像が撮影された。VISIRもVLTのUT3望遠鏡に取り付けられていて、中間赤外線と呼ばれる波長で撮影と分光を行う。この画像はフランス・パリ天文台のPierre Kervellaさんらの研究チームが撮影したもので、ベテルギウスの周囲に広がっているのはベテルギウスが宇宙空間に放出した塵の雲だ。
「ベテルギウスのような赤色超巨星は、超新星爆発で一生を終えるまでの間ずっと、莫大な量の物質を生み出し、宇宙に放出します。最新の技術によって、数百光年も離れた恒星をかつてないほど詳細に研究することが可能になりました。こうした技術は、赤色超巨星の質量放出が何によって引き起こされているのかという謎を解く機会を私たちに与えてくれています」(ルーヴェン・カトリック大学 Emily Cannonさん)。
(文:中野太郎)
〈参照〉
〈関連リンク〉
- Very Large Telescope
- アストロアーツ:
- 星ナビ2020年3月号 News Watch「終末のベテルギウス」
- 天体写真ギャラリー:2019年12月~ オリオン座ベテルギウスの減光
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