隕石が物語る40億年前の火星環境は地球と似ていた
【2020年5月12日 JAXA宇宙科学研究所】
火星の環境に関しては、火星を直接訪れた探査機によって数多くの知見がもたらされているが、火星の試料を地球で直接分析することも研究の上では欠かせない。それが可能なのは、火星で形成された岩石が隕石の衝突などで火星重力圏から飛び出し、地球へ飛来した「火星隕石」が見つかっているからだ。
火星隕石の中でも、1984年に南極で発見された「Allan Hills(ALH)84001」には40億年前の火星において水中で沈殿した炭酸塩鉱物がわずかに含まれており、太古の火星環境を知る手がかりとして研究が重ねられてきた。しかし、隕石には落下地点の南極で物質が混入している上に、従来の分析手法では実験の過程で試料が汚染されるという問題もあり、火星の有機物を探るのは困難だった。とくに大気・水・岩石の間で循環する重要な元素である窒素の分析が課題とされていた。
JAXA宇宙科学研究所の小池みずほさんたちの研究チームは、試料にX線を照射して吸収される波長を調べる「窒素X線吸収端近傍構造(μ-XANES)分析」によってALH 84001の炭酸塩鉱物を分析した。この手法を用いると試料を破壊せずに調べられるため、実験中の汚染を抑えることができる。研究チームではX線照射装置として理化学研究所の大型放射光施設(SPring-8)のビームライン(BL27SU)を使用した。試料を準備する過程でも、物質の混入を最低限に抑える手法も開発している。
その結果、ALH 84001の炭酸塩鉱物から、混入物ではなく火星由来と推測できる有機窒素化合物が検出された。一方、窒素と酸素が結びついてできる硝酸塩のような無機窒素は検出されなかった。現在の火星表面は物質が酸化しやすく、多くの化合物が短時間で壊れてしまうが、40億年前の火星はそこまで酸化的ではなかったことを示唆する結果である。ALH 84001の炭酸塩鉱物は、そのころの表層水や地下水に存在した有機物を閉じ込め、苛酷な環境から守る保管庫の役割を果たしていたと言えそうだ。
今回検出された火星の有機窒素化合物には外来と内製という2つの起源が考えられる。太古の地球や火星には有機物を含む多数の隕石や彗星が衝突しており、その中の有機窒素化合物が火星の炭酸塩鉱物に取り込まれたのかもしれない。あるいは、大気中の窒素や窒素酸化物からアンモニアを介して有機窒素化合物を作り出す還元反応が起こった可能性もある。
かつての火星は、現在のような乾いた“赤い惑星”ではなく、水や多様な有機物に特徴づけられる、生命誕生前の初期地球に似た姿をしていたのかもしれない。
〈参照〉
- JAXA宇宙科学研究所:40億年前の火星岩石から有機窒素化合物を検出
- Nature Communications:In-situ preservation of nitrogen-bearing organics in Noachian Martian carbonates 論文
〈関連リンク〉
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