太古の火星は温暖化と寒冷化を繰り返していたかもしれない
【2020年5月27日 NASA】
太古の火星に水が存在したことは確実視されている。火星上空を周回する探査機や地表に着陸した探査車などによって、水が干上がったことで形成された地形や鉱物が続々と発見されているからだ。さらには有機物も見つかっている。水と有機物とくれば、生命が存在したのか(そして今も生き残ってるのか)と考えたくなるところだが、過去の火星がどのような環境だったのかを調べるのは容易ではない。特に、湿潤な環境を維持できるほど温暖な気候であったかどうかは重要な問題である。
NASAの火星探査車「キュリオシティ」が解き明かしたところによれば、かつての火星は温暖化と寒冷化を繰り返していた可能性があるという。キュリオシティが着陸したゲールクレーターの中央に位置するシャープ山の裾からは、太古の湖の泥できた厚さ約300mの堆積物の層が発見された。堆積層がこれだけの厚さになるためには、数百万年から数千万年にもわたり温暖で湿った期間が続き、湖に水が流れ込み続けたはずである。
ところがその一方で、クレーターの中には火星が寒冷期に転じたときの名残も見つかっている。
NASAゴダード宇宙飛行センターのHeather Franzさんたちの研究チームは、キュリオシティが集めた塵と岩石のサンプルを探査車に搭載された試料分析ユニット「SAM」の中で最大で摂氏約900度にまで加熱し、鉱物が分解して放出される二酸化炭素と酸素、およびその際の温度を調べてきた。かつて火星には濃い二酸化炭素の大気が存在したとみられており、その大半は宇宙空間に逃げてしまったが、一部は炭酸塩という形で岩石に閉じ込められた可能性がある。岩石からその二酸化炭素、あるいは二酸化炭素を構成する酸素原子と炭素原子を取り出して分析することで、太古の火星の大気や環境に関する情報が得られるのだ。
同じ酸素という元素でも、「同位体」といって微妙に質量が異なる複数の原子が存在する。Franzさんたちは一部の鉱物に含まれる酸素原子が、大気中の二酸化炭素を構成する酸素よりも平均して軽いことを突き止めた。二酸化炭素が水に溶けて水底の岩石に取り込まれるという単純な過程では重い酸素の同位体が選ばれやすい。しかし軽い同位体が多かったということは、反応が起こった時点で湖が凍っていて、重い同位体が氷の中に取り込まれていた可能性がある。
「ある時点で、火星は温暖で湿潤な時代から、現在のような冷たく乾いた時代へと移行したはずですが、正確にいつどのように起こったかは謎です」(Franzさん)。気温の変化を引き起こす要因としては、火星の自転軸の傾きや火山の活動量などが考えられるという。
〈参照〉
- NASA:NASA’s Curiosity Rover Finds Clues to Chilly Ancient Mars Buried in Rocks
- Nature Astronomy:Indigenous and exogenous organics and surface - atmosphere cycling inferred from carbon and oxygen isotopes at Gale crater 論文
〈関連リンク〉
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