元素組成から探るIa型超新星の起源
【2020年10月13日 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構】
超新星の多くは大質量星が一生の最後に起こす大爆発だが、Ia型超新星に分類されるものは、低・中質量の星が隣り合って共に進化する連星系で起こる。Ia型超新星はほぼ一定の明るさで輝くことから、その見かけの明るさにより遠方の宇宙での距離を測る「ものさし」として用いられてきた。この性質を利用することで、宇宙の加速膨張が発見され暗黒エネルギーの存在が明らかになり、2011年のノーベル物理学賞につながった(参照:「宇宙の加速膨張の発見で米研究者ら3人がノーベル物理学賞を受賞」)。しかし、Ia型超新星の起源については謎が残っており、半世紀も論争が続いている。
Ia型超新星について確実に言えるのは、爆発前の連星の少なくとも片方は炭素と酸素でできた白色矮星だということだ。白色矮星は太陽のような恒星が核融合反応を終えた後に残る高密度の中心核で、中質量の恒星が残す白色矮星は炭素と酸素を主体とする。白色矮星は「電子の縮退圧」という物理作用で自重を支えているが、この電子の縮退圧は太陽の約1.4倍の質量までしか支えられず、この上限に近づくと核融合を起こして爆発してしまう。この上限は「チャンドラセカール限界質量」とも呼ばれる。
その白色矮星が超新星爆発に至る過程には2つのシナリオが唱えられている。「単縮退星シナリオ」(SD説)と呼ばれる説は、連星のもう一方が核融合で輝く通常の恒星で、恒星から白色矮星へとガスが徐々に降り積もることで爆発に至るというものだ。この場合、爆発時の白色矮星は、チャンドラセカール限界質量の上限を超えずともかなり近い値となる。
もう一つの「二重縮退星シナリオ」(DD説)は連星の星が2つとも白色矮星であり、その両者が合体して爆発するというものだ。この場合、爆発時の質量はチャンドラセカール限界より小さい(サブチャンドラセカール限界)と考えられる。
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機(Kavli IPMU)および英・ハートフォードシャー大学の小林千晶さんたちの研究チームはコンピューターシミュレーションにより、Ia型超新星の爆発から核反応による元素合成と、銀河における元素量の進化までを追う研究を行った。小林さんたちは世界初の試みとして、「チャンドラセカール限界」と「サブチャンドラセカール限界」の両方の場合について二次元の流体シミュレーションと元素合成計算を行った。 その結果、マンガンの生成量が決定的に違うということが明らかになった。チャンドラセカール限界のシミュレーションでは、マンガン形成に不可欠な高温高密状態が作られたのに対し、サブチャンドラセカール限界のシミュレーションではそのような条件はあまり満たされず、マンガンもあまり生成されなかった。
この結果を銀河の進化モデルに組み込むと、Ia型超新星に占めるチャンドラセカール限界爆発とサブチャンドラセカール限界爆発の割合に応じて元素の組成比が時間とともにどのように変化するかを予測できる。その予測を太陽系近傍の星々の元素組成比と比較することにより、親星がチャンドラセカール限界の質量に近い場合(SD説)は少なくとも75%はあることが示された。
元素合成計算では、作られるニッケルの量が観測より多すぎるという問題が90年代から指摘されてきた。今回の計算で最新の核反応率を用いたことにより、ニッケル生成量が大幅に変わり、観測と一致するようになった。また、超新星の明るさの鍵となる鉄の生成量はどちらの場合でも大差はなく、太陽質量の6割程度だった。大質量星由来の超新星における鉄の量は7%程度であることから、Ia型超新星は通常の超新星より約10倍明るいことになる。
さらに、天の川銀河周辺にある矮小銀河では、Ia型超新星の親星がチャンドラセカール限界より小さい方が観測と合うという示唆も得られた。
現在、天の川銀河近傍の元素組成分布は「銀河系考古学」という新しい学術領域において、100万以上の星々の観測が複数の国際プロジェクトで進められている。それらの観測と今回の研究で得られた成果との比較が期待される。
〈参照〉
- Kavli IPMU:Ia 型超新星の起源がマンガンの組成比から明らかに
- The Astrophysical Journal:New Type Ia Supernova Yields and the Manganese and Nickel Problems in the Milky Way and Dwarf Spheroidal Galaxies 論文
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