火星の火山から伸びる雲の秘密
【2021年3月16日 ヨーロッパ宇宙機関】
火星のアルシア山は、平原から測ると標高が20kmにも達する大火山だ。その山頂付近からときおり雲が伸びている様子が、火星上空を周回する探査機によってとらえられている。一見、火山が噴火しているように見えるが、実際には火山活動が起こっているわけではないらしい。
アルシア山は火星の赤道からやや南に離れたところに位置している。雲は決まって、火星の南半球が春や夏のころ、アルシア山が日の出を迎えるころに出現し、朝のうちに西へと成長し、午後には消えてしまう。火星探査機の多くは午後になるまでこの地域を撮影できない軌道を飛行しているため、この雲をとらえて詳細に分析するのは難しかった。
そんなアルシア山の雲を何度もとらえることに成功したのが、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の火星探査機「マーズ・エクスプレス」だ。
スペイン・バスク大学のJorge Hernández-Bernalさんたちの研究チームは、同探査機に搭載された監視カメラ(VMC; Visual Monitoring Camera)を活用した。VMCの性能は、マーズ・エクスプレスが打ち上げられた2003年当時に市販されていたウェブカメラと大差ない。元々は着陸機「ビーグル2」がマーズ・エクスプレスから正常に分離できたかを確認するために備え付けられていたので、2003年12月にビーグル2が分離して降下してからはお役御免となるはずだった(そのビーグル2は途中で通信途絶となってしまった)。数年後にVMCは再び稼働を始めたが、それもあくまで広報やアウトリーチ用の画像を撮影するためだった。
しかし最近になって、VMCは科学観測装置に位置づけられることになった。「VMCは解像度こそ低いものの、広い視野を持っています。これは様々な現地時刻における大局を見るには不可欠な特性です。また、何かに注目してその変化を長期間にわたって短い時間間隔で追跡するのにうってつけです。おかげで、私たちは雲が出現してから消えるまでのサイクルを何度もとらえ、その全体像を研究できました」(Hernández-Bernalさん)。
研究チームは、マーズ・エクスプレスに搭載されたVMC以外の科学機器や、他の探査機による観測データも参照した。「1970年代のNASAの「バイキング2号」による観測データを詳しく調べたときは特に興奮しました。巨大で興味をそそるこの雲が、当時すでに部分的にとらえられていたからです」(Hernández-Bernalさん)。
雲は最長で約1800kmまで伸び、幅は150kmに達することもあると判明した。これは火星で見られる最大の地形性の雲だ。アルシア山の斜面に湿った空気がぶつかることで上昇気流となり、気温の低い上空で水蒸気が凝結して雲が生じている。アルシア山山頂の西側では日の出前から雲が成長し始め、その後2時間半ほどかけて西へと拡大する。その速度は高度45kmで時速600km以上にも達する。そして高高度の風に乗ってさらに西へと移動するが、日が高く昇ると気温が上がり、雲は消滅してしまう。
こうした地形性の雲は地球でもよく見られるが、アルシア山ほど大規模で劇的な変化を示すものはない。この雲を理解することで、火星だけでなく地球の気候モデルを改良することにつながると研究チームは期待する。
〈参照〉
- ESA:Mars Express unlocks the secrets of curious cloud
- Journal of Geophysical Research:An Extremely Elongated Cloud Over Arsia Mons Volcano on Mars: I. Life Cycle 論文
〈関連リンク〉
- Mars Express
- Viking 2
- アストロアーツ:
- 【特集】火星(2020~2021年)
- 天体写真ギャラリー:2021年 火星
関連記事
- 2024/11/26 2024年12月上旬 火星とプレセペ星団が接近
- 2024/11/14 2024年11月20日 月と火星が接近
- 2024/10/22 【特集】火星(2025年1月12日 地球最接近)
- 2024/10/17 2024年10月23日 月と火星が接近
- 2024/10/03 火星の地震波が示す、液体の水が地下に存在する可能性
- 2024/10/03 「火星のクレーター」を教室に再現!ドラマ「宙わたる教室」が10月放送開始
- 2024/09/25 太古の火星でホルムアルデヒドが有機物生成に寄与
- 2024/08/07 2024年8月中旬 火星と木星が大接近
- 2024/07/24 火星大気中の塩化水素を全球で検出
- 2024/07/11 2024年7月下旬 火星とプレアデス星団が接近
- 2024/07/08 2024年7月中旬 火星と天王星が大接近
- 2024/06/25 2024年7月2日 細い月と火星が接近
- 2024/06/17 火星の赤道地方の山頂で霜を検出
- 2024/05/27 2024年6月3日 細い月と火星が大接近
- 2024/05/17 初期火星の有機物は一酸化炭素から作られた
- 2024/04/24 2024年5月5日 火星食
- 2024/04/24 2024年5月5日 細い月と火星が接近
- 2024/04/19 2024年4月下旬 火星と海王星が大接近
- 2024/04/04 2024年4月中旬 火星と土星が大接近
- 2024/02/15 2024年2月下旬 金星と火星が大接近