太陽系最古の火山岩を発見
【2021年3月30日 国立極地研究所】
地球上の岩石には太陽系誕生から現在までの45億年以上の間に、様々な作用が働いている。そのため、岩石から太陽系形成直後の情報を得るのは難しい。一方、隕石は地球に飛来するまで溶けたり変成したりすることなく宇宙空間に留まっていたので、太陽系初期まで遡る情報を保持している可能性がある。
とはいえそうした隕石も、最初から小さな塊のまま生き残ったわけではなく、原始惑星の一部が天体衝突で飛び出して形成された可能性が高い。その原始惑星で火山活動があった場合、隕石からもその情報を読み解くことができる。
火山活動は、地球などの大きな惑星へと成長する途上の微惑星や原始惑星で盛んだったと予想される。太陽系誕生時に存在していたアルミニウム26(26Al)などの寿命が短い放射性同位体が壊変するときの熱で、天体内部が溶融するからだ。溶けたマグマが地表に流れ出て固まると火山岩になる。
火山岩は含まれる二酸化ケイ素(SiO2)の割合で大別され、SiO2が比較的少なく鉄やマグネシウムに富む玄武岩と、ややSiO2が多い安山岩が代表的なものだ。従来の研究では、原始惑星で形成される火山岩は玄武岩質だと予想されており、実際にこれまでに見つかった隕石には玄武岩質のものが多く、安山岩はほとんどない。ところが、最近の研究は太陽系の原材料物質を溶かして固めると安山岩になることを示唆していた。
この予想を裏付けるように、仏・ブルターニュ・オキシダンタル大学のJean-Alix Barratさんたちの研究チームが、既知の隕石で最古の火山岩が安山岩であると発表した。この隕石は、2020年5月にアルジェリア南部のシェシュ砂漠(Erg Chech)で見つかった「Erg Chech 002(EC 002)」である。
BarratさんたちはEC 002の成分を分析し、マグネシウムの同位体であるマグネシウム26(26Mg)の量を調べた。マグネシウム26はアルミニウム26の壊変で生成されるので、マグネシウム26が相対的に多いほど、アルミニウム26が多かったとき、すなわち太陽系形成の初期に形成された鉱物だと計算できる。分析の結果、EC 002は太陽系で固体物質が形成され始めてからわずか225.5万年後、今からおよそ45億6500万年前に冷えた溶岩でできていることがわかった。これは年代が判明した隕石や岩石の中では最古の火山岩だ。
さらに、詳細な年代データの解析から、溶岩の発生から噴出まで数十万年を要したこともわかった。溶けた安山岩は粘性が高いため、天体の内部から地表へ流れ出るまで時間が掛かったのだと説明できる。また、岩石組織などから溶岩がどのように冷えたかを分析すると、まず摂氏1200度から1000度まで1年に5度くらいのペースでゆっくりと冷却し、そこから1日あたり0.1度から1度以上という急冷が始まったようだ。最初の段階は厚さ数mの溶岩が冷える速度に対応し、その後の急冷は天体の衝突で溶岩が外部に露出したためだと推測できる。
EC 002は、成長途中の微惑星や原始惑星では安山岩質の溶岩が普遍的に存在していたことを示唆する。一方で安山岩質の隕石はごくまれであり、小惑星のスペクトルを解析してもEC 002と同じ特徴を示すものも見当たらない。初期太陽系の安山岩質溶岩は衝突で破砕され、他の天体に取り込まれて変成していったようだ。
〈参照〉
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