129億年前の銀河から窒素と酸素を検出

このエントリーをはてなブックマークに追加
アルマ望遠鏡が、129億年前の銀河から窒素と酸素の存在を示す電波をとらえた。宇宙誕生から9億年の時点で、星の誕生と死のサイクルが繰り返されて重元素が作られていたようだ。

【2022年3月4日 アルマ望遠鏡

窒素と酸素は合わせて地球大気の99%を占める元素だが、138億年前のビッグバン直後には宇宙のどこにも存在していなかった。ヘリウムより重い元素(重元素)は、ビッグバン後しばらくしてから誕生した恒星内部の核融合で作られ、恒星が寿命を迎えるとともに放出されたものだ。

ビッグバンから9億年後(現在から129億年前)の宇宙に存在する、うみへび座方向の銀河G09.83808には、そうした恒星のライフサイクルの証である重元素が既に存在していたようだ。アルマ望遠鏡がこの銀河を観測したところ、窒素、酸素、一酸化炭素、塵のそれぞれが発する電波が検出された。

G09.83808
G09.83808。2つの天体に見えるのは重力レンズ効果によるもので、実際には1つの銀河(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)、HSC-SSP、但木謙一/国立天文台)

G09.83808の手前には別の銀河があり、その銀河の重力が電磁波を増幅する「重力レンズ効果」が働いているおかげで、G09.83808からの電波が十分な強度で検出できた。ただし、重力レンズによってG09.83808の姿はゆがみ、地球からは2つの弧状の天体に見えている。

129億年前の銀河の想像図
G09.83808の想像図。手前の銀河(オレンジ色)の重力によって、背後にあるG09.83808が2つの弧状の天体として観測されている(提供:国立天文台)

今回の観測で注目されるのは、窒素が検出されたことだ。同じ核融合反応で作られる重元素でも、現在の宇宙に存在する窒素と酸素の起源は少し異なると考えられている。

酸素は、宇宙誕生直後に存在していたヘリウムを材料とする核融合で生成することができる。この核融合反応は質量が非常に大きく寿命が短い恒星で起こるため、宇宙に恒星の第一世代が誕生してから間もなく酸素もまき散らされるようになったと考えられる。

一方、窒素を作る核融合反応が進み始めるには、ある程度の炭素と酸素が存在しなければならない。また、この核融合反応が進むのは、寿命が少し長い、中程度の質量の恒星内部である。窒素が多く検出されたという結果は、その時点より過去の宇宙で星の誕生と死のサイクルが繰り返され、重元素が作られていたことを意味する。

銀河に含まれる元素の存在比に関する経験則が、現在の宇宙と129億年前で同じように成り立つと仮定すれば、G09.83808における重元素の存在比率は、太陽系での存在比率の50~70%ほどにもなるという。

今回観測した銀河G09.83808は、古い星が多く質量も大きい巨大楕円銀河の祖先と考えられる。宇宙誕生直後の主に水素とヘリウムしか存在しなかった時点からわずか9億年間で、いかにして銀河は重元素を増やしてきたのだろうか。その答えを探るために、さらに古い銀河における窒素の検出が待ち望まれている。