火星の自転はわずかに加速している

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NASAの火星探査機「インサイト」のデータから、火星の自転がわずかに加速していることが明らかになった。また、火星の核の大きさや形も新たに推定されている。

【2023年8月14日 NASA JPL

2018年11月に火星に着陸したNASAの探査機「インサイト」は、太陽電池パネルに砂ぼこりが積もって発電量が下がり、2022年12月に運用を終了した。しかし、4年にわたって得られた大量の観測データが、現在も研究者によって分析されている。

インサイト
火星着陸から1211火星日(1火星日=約24時間40分)が経過した、2022年4月24日に撮影されたインサイトの「自撮り」画像。機体や太陽電池パネルに大量に砂ぼこりが積もっている。これによって発電量が低下し、2022年12月に運用終了となった(提供:NASA/JPL-Caltech、以下同)

ベルギー王立天文台のSébastien Le Maistreさんを中心とする研究チームは、インサイトに搭載されている「自転・内部構造実験装置(Rotation and Interior Structure Experiment; RISE)」という装置のデータを解析した。RISEは地球と電波を送受信することで火星の自転軸のふらつきを検出し、火星の内部構造についての情報を得る装置だ。

RISE
インサイトのイラスト。矢印の位置にRISEのアンテナが装備されている

インサイトのミッションでは、NASAが運用する「深宇宙ネットワーク(DSN)」のアンテナを使ってインサイトの着陸機に電波を送信する。RISEはこの電波を地球に送り返すが、地球に戻ってくる電波は火星の運動によってドップラー効果を受け、周波数がわずかに変わる。この周波数の変化を測定することで、1年でわずか数十cmという探査機の位置のずれを検出し、火星の自転速度を精密に求めるのだ。

研究チームがインサイトの最初の900日分のデータを解析したところ、火星の自転周期は1年当たり約4ミリ秒ほど短くなっていることが明らかになった。つまり、火星の自転はわずかに加速していることになる。

ただし、加速の度合いは非常に小さく、その原因は完全にはつかめていない。考えられる可能性としては、極冠の氷が増えている、かつて火星表面にあった氷河が融けてなくなったことで火星の陸塊が隆起している、などがある。フィギュアスケートの選手が腕を縮めるとスピンが速まるのと同じように、火星表面の質量分布が変われば自転は加速しうるからだ。

また、RISEからは「章動」という火星の自転軸のふらつきのデータも得られている。火星の内部は地球と同じように核とマントルに分かれていて、核の一部または全部が流体の状態だと考えられている。火星の章動はこの流体の核が揺れ動くことで生じ、章動を測定すると核のサイズを推定できる。Le Maistreさんたちの解析で、核の半径は約1835kmと求められた。

火星の核については、過去の探査機で観測された地震波のデータからも、2種類の推定値が得られている。地震波が火星の内部を伝わると、核とマントルの境界で反射されたり核の内部を通り抜けたりするので、やはり核の大きさを見積もることができるのだ。今回の推定値を含む3つの値を全て考慮すると、核の半径は1790~1850kmという結果になる。火星の半径は3390kmなので、火星の核の比率は地球よりもかなり大きい。

さらに、章動の測定から、火星の核が自転だけでは説明ができない形状をしていることも示唆されている。マントルの深部に密度のばらつきが存在することで、核の形が影響を受けているのかもしれないという。

「RISEは歴史的な実験となりました。この実験にたくさんの時間とエネルギーを費やし、今回の発見を待ち望んでいました。私たちは今も驚くような結果に出会っていて、終わりがありません。RISEはまだまだ火星について多くの新発見をもたらしてくれるでしょう」(Le Maistreさん)。

〈参照〉

〈関連リンク〉

  • InSight
  • アストロアーツ天体写真ギャラリー:火星