月の表と裏の違いを解く鍵は塩素にあった

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月を模した高圧・高温実験とモデル計算を組み合わせた研究から、月の表側の地殻には塩素が非常に多く含まれていることが示された。表側は塩素で変質を受けた一方、裏側にはより始原的な地殻が残っているとみられる。

【2025年7月2日 愛媛大学

月は約45億年前、原始地球と火星ほどの大きさの仮説上の天体「テイア」との衝突で誕生したと考えられている。その衝突によって膨大なエネルギーが発生し、地球と月の表面はマグマの海に覆われたと推定されている。

このマグマが冷却する過程で、月全体に均一な地殻が形成されたと考えられてきた。しかし、実際の月の表面は均一ではなく、地球から見える表側と見えない裏側とではまったく異なる表情を持つ。表側は約35億年前に噴出した玄武岩質のマグマで形成された濃い色の玄武岩で覆われた黒い「海」と呼ばれる地域が広がっているが、裏側はほぼ全面が白い高地で、海はほとんど存在しない。

月
月の表側(左)と裏側(右)(提供:NASA LRO / Jatan Mehta

愛媛大学先端研究院地球深部ダイナミクス研究センターのJiejun Jingさんたちの研究チームは、表と裏の違いを解く鍵が月のサンプルに含まれるごく微量のフッ素や塩素といったハロゲン元素にあるかもしれないと考えた。

Jingさんたちは独・ミュンスター大学とオランダ・アムステルダム自由大学と連携し、これまで報告例の乏しかった初期の月環境に近い条件での高圧・高温実験を行って、塩素が鉱物と共存するマグマとの間でどのように分配されるかについて新たなデータを取得した。さらに、実験結果を月の内部進化モデルと組み合わせて検討した結果、表側の地殻には異常なほど多く塩素が含まれていることがわかった。一方、裏側の地殻にはそのような塩素の濃集は見られなかった。

塩素は揮発性が高く、マグマに溶けにくい。そのため、月の表側の地殻が塩素を多く含むことになった原因は、表側で起こった火山活動などに伴ってガスとして放出された塩素が岩石へ取り込まれたことによるものと考えられる。一方、塩素を含まない裏側の地殻は、約43億年前に月の内部から供給されたマグマから形成されたもので、月誕生直後のマグマの海(マグマオーシャン)の痕跡を保存していると考えられる。

月の地殻の形成過程
月の地殻の形成過程。(左)マグマの海に覆われていた約45億年前の月。(中)月の裏側。マグマオーシャンが冷えて固まってできた白色の斜長石で覆われている。(右)月の表側。玄武岩が作る海は内部から噴出したマグマによって作られた。(赤)マグマ、(黄)中心核、(緑)固化したマントル、(灰)地殻(提供:愛媛大学リリース)

本研究は、フッ素や塩素といった揮発性元素を含む月の地殻中鉱物と地殻形成過程との関係を初めて示したものだ。塩素に富む蒸気の存在が、私たちが目にしている月の表側を変貌させた大きな要因であることや、塩素の蒸気にさらされなかった裏側には、より始原的な情報が保存されていることが示唆される。近年進む月の裏側探査の、科学的重要性を支持する成果でもある。

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