若い惑星環境を揺るがす巨大フレアの多温度・多速度噴出

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若い太陽型星から噴出する高温高速のガスと低温低速のガスが、せいめい望遠鏡、なゆた望遠鏡などで観測された。太陽に見られる「多温度・多速度の噴出現象」が太陽型星でも発生していることを直接裏付ける初の成果だ。

【2025年11月5日 京都大学

近年、太陽によく似た若い太陽型星の観測から、最大級の太陽フレアを超える「恒星フレア」が高頻度で発生していることがわかってきた。おそらく太陽も40億年以上前には頻繁にフレアや噴出現象を起こし、地球などに強い放射線を浴びせ、生命誕生の環境に大きな影響を及ぼしたと考えられる。

この現象は従来、単一波長で観測されてきたが、物理モデルの構築や惑星環境への影響評価は十分には進んでおらず、より広い温度帯を同時にとらえる多波長観測が求められていた。

京都大学白眉センターの行方宏介さんたちの研究チームは、NASAのハッブル宇宙望遠鏡(HST)、京都大学岡山天文台「せいめい望遠鏡」、兵庫県立大学西はりま天文台「なゆた望遠鏡」、韓国天文研究院の普賢山光学天文台(BOAO)望遠鏡などを用いて、前例のない規模の紫外線と可視光線での同時観測を実施した。

観測対象となったのは、りゅう座の方向約110光年の距離にある、太陽と同程度の質量を持つ年齢約1億歳の若い恒星「りゅう座EK」だ。過去には最大級の太陽フレアの10倍以上も強い「スーパーフレア」が観測されている天体だが、今回2024年3月30日に発生した恒星フレアも大規模で、1859年に発生した太陽観測史上最大の太陽フレア「キャリントン・フレア」に匹敵するものだった。

りゅう座EKのフレアに伴うガス噴出の想像図
りゅう座EKのフレアに伴うガス噴出の想像図。高温で速い噴出が青く、低温でゆっくりした噴出が赤く描かれている(提供:国立天文台)

解析の結果、まず温度10万度にも達する高温ガスが秒速約300~550kmの高速で噴出し、その約10分後に温度1万度程度の比較的低温のガスが秒速約70kmで噴出していたことがわかった。従来の観測では低温低速の噴出しかとらえられなかったため、噴出現象のエネルギーが過小評価されてきたが、今回高温高速の噴出も検出されたことにより、実際のエネルギー輸送がはるかに大きいことが明らかになった。

恒星フレアの光度曲線、スペクトル線の青方偏移の検出
(上段)観測された恒星フレアの光度曲線、(下段)スペクトル線の青方偏移(ドップラーシフト)の検出。(左)ハッブル宇宙望遠鏡が紫外線で観測した約10万度のケイ素のデータ、(右)地上望遠鏡で可視光線で検出された約1万度の水素のデータ。青線がフィッティングで求められた青方偏移の成分を示す(提供:京都大学リリース)

今回の成果は、太陽で知られる「多温度・多速度の噴出現象」と極めてよく対応する現象が太陽型星でも発生することを初めて示したものだ。また、こうした巨大噴出現象の発生頻度が高いことも明らかになっている。若い恒星でも高エネルギー噴出現象が見られるということは、過去の太陽でも同様のことが起こっていたかもしれず、惑星大気や生命環境などに大きく影響を及ぼしていた可能性が示唆される。

一方で、複数の温度を持つガス成分が噴出現象の中でどう結びついているのかについては、物理的な解釈がはっきりしていない。今後、高温のガスをとらえるX線や、衝撃波や粒子加速を調べられる電波を組み合わせた多波長観測を多くの対象に行うことで理解が深まると期待される。

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