太陽は生命を育むリンを多く含む環境で誕生した
【2026年5月27日 東京大学大学院 理学系研究科・理学部】
リンはDNAやRNA、エネルギーの受け渡しに重要なATP(アデノシン三リン酸)など多くの生体分子に含まれる、生命に必須の元素である。他の多くの元素と同様に恒星で合成され、大質量星の進化や重力崩壊型超新星が主要な起源と考えられてきたが、それだけでは観測される実際のリンの量を十分に説明できていない。
太陽のような比較的寿命の長い星ではリンの吸収線が可視光線スペクトルに現れないため、含有量を観測することができない。近赤外線スペクトルには観測可能なリンの吸収線が存在するが、強度が弱く高精度の測定が難しいため、リンの起源と進化を探るために必要な観測データが不足していた。
東京大学の松永典之さんたちの研究チームは、チリ・ラスカンパナス天文台のマゼラン望遠鏡と近赤外線高分散分光器「WINERED」を用いて、太陽の近傍に存在する46個の太陽類似星に含まれるリンなど16種類の元素の含有量を測定した。太陽類似星は質量や表面温度などが太陽に近く、互いによく似ているため、星ごとの元素組成のわずかな違いを高い精度で比較することができる。解析では複数の吸収線を組み合わせるという、測定精度を向上させる工夫も行われた。
その結果、太陽類似星では古い星ほど他の重元素に対するリンの割合が高いという明瞭な相関があることが、世界で初めて示された。この年齢依存性はマグネシウムなど他の多くの元素よりも大きく、リンが銀河における元素進化の中で独特の履歴をもつことも判明した。

太陽類似星の年齢とリン含有率の関係。中央付近のオレンジ色の星印が太陽のデータ(提供:松永典之)
太陽近傍の太陽類似星は、誕生時には天の川銀河内の異なる場所にあり、現在の位置まで移動してきたと考えられる。また、天の川銀河では中心に近い領域ほど星が活発に生まれ、元素合成も速く進んだことがわかっている。これらのことから、年齢の古い太陽類似星ほど銀河の内側で生まれ、その時点でやや多いリンを獲得していたことが導かれる。急速に星が生まれて重元素合成が速く進んだ環境ほど、相対的に多くのリンを含んでいたということだ。
近年の研究によると、太陽系も銀河の内側寄りで生まれた後、長い時間をかけて今の場所まで1万光年以上移動してきた可能性が示されている。今回の研究成果と合わせると、46億年前に生まれた太陽は、現在の太陽近傍で生まれる太陽類似星に比べて、より多くのリンを含む環境で誕生したと考えられる。太陽系は銀河の内側で生まれたことで、生命の材料となるリンの“ボーナス”を受け取っていたことになる。

今回の研究成果の説明図。(上)46億年前に銀河の内側で生まれた太陽は、現在の太陽近傍で最近生まれた星と比べてリン含有量が25%高い。(下)銀河の内側で生まれて移動してきた年老いた太陽類似星はリンをやや多く含み、太陽の現在位置に近いところで生まれた若い太陽類似星はリンがやや少ない。今回の観測対象である46個の太陽近傍星は現在の太陽位置から300光年程度以内にあり、白丸の中に収まっている(提供:松永典之、下図はChatGPTを使用)
「他の多くの天体でもリンの測定を進めています。生命にとって重要なこの元素が宇宙でどのように増えてきたのかを、今後も探っていきたいと考えています」(松永さん)。
〈参照〉
- 東京大学大学院 理学系研究科・理学部:太陽の「生まれ」が与えたリン元素のボーナス ー太陽に似た星の観測から銀河におけるリン含有量の変化を解明ー
- The Astrophysical Journal Supplement Series:High-precision Near-infrared Abundances of Solar Analogs in the YJ Bands 論文
〈関連リンク〉
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