水星は形成から現在までに10km以上縮んでいた
【2026年9月16日 北海道大学】
水星の表面には多くのしわ状の「収縮地形」が見られる。この地形は、水星が誕生した後、内部が冷えて惑星全体が縮む(収縮する)ことで地殻が圧縮されてできた「逆断層」と考えられている。

水星の収縮地形の例(提供:西山学)
これまでの研究では、収縮地形の高さや長さの情報から各断層による地殻の短縮量を計算し、そこから水星の半径収縮量が推定されてきた。半径収縮量は水星の熱進化モデルと定量的に比較できるため、水星の内部進化を解明する観測的手がかりとして用いられてきた。
一方で、収縮地形の分布が水平方向に不均質であるという謎が残されていた。収縮地形が天体の冷却のみに由来するのであれば、その分布は全球で均一になるはずだが、実際の分布には場所ごとの偏りが見られ、収縮地形がほとんど見られない地域もある。
北海道大学/ドイツ航空宇宙センター/東京大学の西山学さんを中心とする研究チームは、この不均質性の原因として、後の地質活動や天体衝突による放出物などによって古い収縮地形が覆い隠され、本来存在するはずの収縮地形が見えていない可能性に着目した。
研究チームは最新の水星地形データを用いて、地形の起伏の大きさを表す統計量(ラフネス)の全球マップを作成した。この指標を用いると、比較的新しいクレーターの放出物の範囲などをラフネスの高い領域として可視化でき、表面の地質過程と収縮地形の分布の関係を定量的に調べることが可能となる。
このラフネスと収縮地形のカタログを用いて両者の分布を比較・調査した結果、ラフネスと収縮地形の分布に明確な負の相関があることが明らかになった。たとえば、比較的新しい大規模クレーターの周辺では、衝突で形成された放出物(イジェクタ)によって表面が粗くなり(ラフネスが高くなり)、その地域では収縮地形が少なくなっている。また、直径100kmを超えるクレーターが比較的多い領域でも同様で、ラフネスが高い一方、収縮地形が少ないという分布が見られた。この傾向は水星全体で見られ、火山地域とそれ以外のどちらにも存在する。

水星のラフネスの分布。赤線は収縮地形の位置、水色の星は比較的最近形成された直径150km以上のクレーターを示す。白線は水星の火山ユニットの境界線に対応する(提供:北海道大学リリース、以下同)
さらに詳しく解析すると、一部の長大な収縮地形では、クレーターの中心に近づくほど収縮地形の起伏が小さくなることも確認された。収縮地形の形成後に堆積した放出物が、古い地形を覆い隠した可能性と整合する結果だ。
ラフネスは表面で起こる現象を反映するため、内部進化を反映する収縮地形と表面過程を反映するラフネスは、本来であれば直接相関しないと考えられる。今回の結果は、粗い地形の下に本来存在する収縮地形が隠されている可能性を強く示唆するものだ。平均的なラフネスが水星よりも高い月のような天体にも、隠れた収縮地形が存在する可能性も提示している。
また、収縮地形の分布に基づいて計算した、水星の表面がどれだけ縮んだかを示す「収縮ひずみ」の分布と、ラフネス分布を組み合わせ、収縮地形が覆い隠されている影響を補正して水星の大きさの変化を推測したところ、半径収縮量が約12kmに及ぶことが判明した。補正がなかった過去の研究での推定量は、最大で約30%過小評価されていた可能性があるという。
こうした補正を行った今回の研究手法は、他の天体の地質・構造地形や熱進化を理解する上で重要な枠組みとなり、惑星進化史の理解に役立つことが期待される。

水星の収縮ひずみの分布
JAXAとヨーロッパ宇宙機関による水星探査ミッション「ベピコロンボ」では、今年11月21日に2機の探査機を水星周回軌道へ投入する予定となっている。来年4月に始まる科学観測で、水星の歴史を解明するためのデータがさらに得られると期待される。
- 北海道大学:水星の半径が形成以降10km以上縮んできたことを解明~惑星の熱進化を明らかにするための新たな解析手法を創出~
- Geophysical Research Letters:Underestimation of Planetary Contraction due to Obscuration by Surface Roughness: The Case of Mercury 論文
〈関連リンク〉
- RISE月惑星探査プロジェクト:水星はどんな地質進化を経験してきた?~表面地形の凹凸度の分布から分かること~
- JAXA:
- ESA:BepiColombo
- X:
- アストロアーツ:
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