2機の天文衛星で重力マイクロレンズ現象を観測、褐色矮星を発見
【2016年11月15日 NASA JPL】
遠くの天体からやってくる光と地球との間に別の天体があると、その中間天体の重力がレンズのような役割を果たして光が曲げられたり明るくなったりする現象が起こる。こうした「重力レンズ現象」のうち、とくに中間天体が軽い天体の場合は「重力マイクロレンズ現象」と呼ばれ、遠くの天体からの光が数千倍も明るくなることもある。
こうした重力マイクロレンズ現象を観測すると、レンズ源として褐色矮星のような軽い天体を発見することができ、その質量が推定可能になる。褐色矮星とは、核融合を起こして恒星として輝けるほどの質量を持たない、恒星と惑星の間の存在と考えられている天体だ。
NASA・ジェット推進研究所のYossi Shvartzvaldさんたちの研究チームは2015年、赤外線観測衛星「スピッツァー」とガンマ線観測衛星「スウィフト」を使って、重力マイクロレンズ現象の観測を行った。この現象は、さそり座といて座の境界付近で起こったもので、2つの衛星の観測に先立って地上の天体望遠鏡でとらえられていたものだ。
スウィフトは地球を周回しているが、スピッツァーは地球の後をずっと離れて追うような位置にある。大きく離れたところから同じ現象を観測し、マイクロレンズのモデルを適用することで、天体の質量や距離を計算することができる。
観測データから、重力マイクロレンズ現象を起こしている天体は主系列星と褐色矮星の連星系であることがわかった。計算によれば褐色矮星の質量は木星の30倍~65倍と見積もられ、中心の星は太陽の半分ほどの質量を持つK型の主系列星らしい。両天体の間隔は0.25天文単位(1天文単位は約1.5億km)と45天文単位の両方が考えられるという。
褐色矮星に関する謎の一つに、太陽程度の軽い星の周囲3天文単位以内に褐色矮星が存在する(発見される)確率が1%以下しかないというものがある。こうした状況は「褐色矮星砂漠」と呼ばれているが、もし今回見つかった系の間隔が0.25天文単位であれば、この褐色矮星は砂漠領域に存在するということになる。「恒星の周りでどのようにして褐色矮星が形成されるのか、なぜ恒星に対して褐色矮星が見つかる場所に偏りがあるのかを知りたいのです。褐色矮星砂漠は、わたしたちが考えているほど乾燥していないのかもしれません」(Shvartzvaldさん)。
〈参照〉
- NASA JPL: NASA Space Telescopes Pinpoint Elusive Brown Dwarf
- The Astrophysical Journal: THE FIRST SIMULTANEOUS MICROLENSING OBSERVATIONS BY TWO SPACE TELESCOPES: SPITZER AND SWIFT REVEAL A BROWN DWARF IN EVENT OGLE-2015-BLG-1319 論文
〈関連リンク〉
- 赤外線観測衛星「スピッツァー」: http://www.spitzer.caltech.edu/
- ガンマ線観測衛星「スウィフト」: http://www.nasa.gov/mission_pages/swift/main/
関連記事
- 2022/12/28 ヒヤデス星団で褐色矮星の姿がとらえられた
- 2021/01/20 全天の3分の1をカバー、10億個の銀河マップ
- 2020/12/17 ガイアとすばる望遠鏡で実現、効率的な系外惑星捜索
- 2020/11/16 電波で初めて見つかった褐色矮星
- 2020/05/14 褐色矮星の表面に木星のような縞模様
- 2020/04/16 褐色矮星の風速を初測定、秒速650m
- 2020/02/18 直接撮像で迫る太陽系外巨大ガス惑星と褐色矮星の形成過程
- 2018/10/16 17世紀に目撃された現象の正体は、白色矮星と褐色矮星の衝突
- 2018/09/03 星の群れ「アソシエーション」に新メンバーが大量加入
- 2018/05/28 「プラズマの虫眼鏡」でパルサーを超拡大観測
- 2018/01/18 ハッブルの高精細3D映像でオリオン座大星雲へダイブ
- 2017/07/24 市民科学者が褐色矮星を発見
- 2017/07/12 天の川銀河には1000億個の褐色矮星
- 2017/06/15 ワルツを踊る褐色矮星
- 2017/05/10 褐色矮星と思われてきた天体、実は若い惑星状天体だった
- 2016/04/21 若い恒星の集団中に、惑星質量の孤独な星
- 2016/04/07 褐色矮星の軌道を観測し、質量を直接算出
- 2014/09/10 太陽系外初、7光年彼方の星に水の氷の兆候
- 2014/08/07 広範囲な温度変化を起こしてきたY型星
- 2014/05/02 7光年彼方に氷点下の褐色矮星