自転速度が記録的に減速したタットル・ジャコビニ・クレサーク彗星
【2018年1月18日 NASA】
NASAの天文衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」(旧称「スウィフト」)が2017年5月に行った観測から、タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星(41P)(以後41P)の自転速度が同年3月に比べて3分の1も遅くなっていることがわかった。「これまでの記録は、90日間で自転周期が17時間から19時間に変化したハートレー彗星(103P)でした。41Pは60日間でその10倍以上も減速したのです」(米・メリーランド大学カレッジパーク校 Dennis Bodewitsさん)。
41Pは5.4年周期で太陽を公転しており、大きさは1.4km以下と見積もられている。木星に軌道を制御されている「木星族」の彗星の中では最も小さく、彗星の表面で起こるジェットがどのように劇的な自転速度の減速を引き起こすのかを調べるのに適している。
2017年3月初めに行われた地上からの観測では、41Pの自転周期は約20時間であったが、月の後半には自転速度の減速が検出された。4月1日に彗星は地球から約2100万kmの距離を通過し、その8日後に太陽に最も近づく近日点を通過した。
さらにその後、スウィフトに搭載されている紫外線・可視光線望遠鏡「UVOT」で5月上旬に41Pを撮影したところ、彗星のコマに放出されたばかりの物質に関連する放射の変化が明らかになり、そのゆっくりとした変化から自転周期が46~60時間と以前の2倍以上に伸びていたことが示された。
計算によると、彗星表面の半分以上の領域で太陽光によって活性化したジェットが発生していたとみられている。「活動が活発な領域のジェットが、彗星の自転の減速につながるトルクを発生させるのに都合の良い方向を向いているのではないかと考えています。もしトルクが5月以降も働き続けていたら、自転周期は100時間かそれ以上まで遅くなっていたかもしれません」(メリーランド大学カレッジパーク校 Tony Farnhamさん)。
Bodewitsさんたちは、彗星は過去もっと速く自転していたと推測している。地すべりや部分的な分裂、新鮮な氷の露出などが起こるほどの速度だったかもしれず、1973年と2001年に見られたアウトバースト(急増光)も41Pの自転の変化と関係していた可能性があるようだ。
スウィフトはこれまで13年間にわたって、彗星のモニタリング観測や惑星を持つ恒星、超新星の増光、中性子星やブラックホールなど広範囲に及ぶ観測を実施してきた。とくに高速スケジューリング、即時応答という特長と可視光線からガンマ線の波長域までをカバーする観測能力で、ガンマ線バーストなど突発現象の観測に力を発揮してきた。
そのスウィフトの新たな名称「ニール・ゲーレルス・スウィフト」は、スウィフトの開発に携わり、主任研究員を務め、2017年2月6日に亡くなった天文学者ニール・ゲーレルス(Neil Gehrels)さんに因んでつけられたものだ。「『ニール・ゲーレルス・スウィフト』という名称は、時間と共に変化する様々な現象の発生源を多波長で追加観測でき、高速応答性にも優れた頼りになる望遠鏡という、現在のスウィフトの存在価値を反映するものです。ニールさんはスウィフトを通じて、タイムドメイン天文学時代の導入の手助けをしてくれました。彼は今日の発見をずっと楽しみにしていたと思います」(NASA天体物理学部門部長 Paul Hertzさん)。
〈参照〉
- NASA:NASA's Newly Renamed Swift Mission Spies a Comet Slowdown
- Nature:A rapid decrease in the rotation rate of comet 41P/Tuttle-Giacobini-Kresák 論文
〈関連リンク〉
- ニール・ゲーレルス・スウィフト
- アストロアーツ 投稿画像ギャラリー:タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星
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