小惑星から離陸した最初の宇宙船となった「はやぶさ」
26日未明、第2回目の着陸、サンプル採取へ
【2005年11月26日 宇宙科学研究本部 宇宙ニュース】
20日に行われた「はやぶさ」の第1回のイトカワ緩降下について、宇宙科学研究本部では、「はやぶさ」は、ほぼ目的とした着地点に30メートル以内の誤差で着陸し、緩降下については成功を収めたと発表。さらに、その後イトカワから離陸した「はやぶさ」は、これで小惑星から離陸した世界初の宇宙船となった。
日本時間2005年11月19日午後9時、第1回イトカワ着陸と試料採取実験のため、「はやぶさ」はイトカワから高度約1キロメートルの地点から降下を開始した。接近、降下、垂直降下にいたっては誘導と航法のすべてが順調に行われた。そして、翌日20日午前4時33分に地上からの指令で最終の垂直降下が開始され、ほぼ目的とした着地点に緩降下することに成功した。目標点との誤差は、おおむね30メートル以内であったものと推定されている。
垂直降下開始時の速度は毎秒12センチ。午前5時28分、高度54メートルの地点に到達した時点で、ターゲットマーカの拘束解除の指令が出され、同30分に、高度40メートルの地点で、探査機自身が毎秒9センチの減速を行い、ターゲットマーカが切り離された。ターゲットマーカが分離されて降下されたことは、画像や減速時の探査機の降下速度の値から確認されている。ターゲットマーカは、イトカワ表面上のミューゼスの海の南西側(画像上では右上側)に着地したものと推定されている。
一方「はやぶさ」本機はその後、高度35メートル地点でレーザ高度計を近距離レーザ距離計(Laser Range Finder: LRF) に切り替えられ、高度25メートルの地点で、降下速度をほぼゼロにして浮遊状態(ホバリング)に入った。その後は、自由降下を行い、日本時間午前5時40分頃、高度17メートル付近で、地表面にならう姿勢制御のモードに移行した。この時点で、探査機は自律シーケンスにより、地上へのテレメトリの送信を停止し、ドプラー速度の計測に有利なビーコンのみの送信に切り替えるとともに、送信アンテナを覆域の広い低利得アンテナに切り替えた。
それ以降は、実時間での搭載各機器の状態の把握はできなかったものの、再生された探査機の記録したデータによって着陸の詳細が明らかになった。「はやぶさ」が自由降下を始めてまもなく、障害物検出センサが何らかの反射光を検出し、降下の中断が適当と自ら判断、緊急離陸を試みたようだ。
当初、「はやぶさ」は表面への着陸を行っていなかったと判断されていたが、再生されたデータによれば、「はやぶさ」はゆるやかな2回のバウンドを経て、およそ30分間にわたりイトカワ表面に接触を保って着陸状態を継続していたことが確認されている。これは、近距離レーザ距離計の計測履歴や、姿勢履歴データから確認することができる。「はやぶさ」が着陸状態になる前後、米国航空宇宙局(NASA)の深宇宙局(DS)から日本の臼田局への切り替えのタイミングにあたってしまったため、地上からのドップラー速度計測では、これを検知できなかった。2回の接地時の表面への降下速度は、毎秒約10センチ。現時点では探査機への大きな損傷は確認されていないが、ヒータセンサの一部に点検を要すると思われる項目があるとのことだ。
「はやぶさ」は、日本時間午前6時58分の地上からの緊急離陸指令まで、安定に着地状態を継続した。試料採取のための着陸検出機能は、上記の理由で起動されていなかったため、実際に着陸が行われていながら、小惑星の表面サンプルの採取は行われなかった。着陸した姿勢は、サンプラーホーン(ラッパ状のサンプル採取機)と探査機の下面端、または太陽電池パネルの先端を表面に接した形態であったと推定されている。
こうして結果的には、「はやぶさ」は、小惑星から離陸した最初の宇宙船となった。離陸後の「はやぶさ」は、通信回線の不確実な状況と、探査機と地上の計算機間の制御権の競合に起因するセーフモードに移行され、これを立て直すために、11月21、22日の両日を要した。さらに記録データの解析が進めば、さらに新たな事実が出てくる可能性もある。着地点の詳細画像や、正確な着地点を推定するための画像が再生され、公開されるはずだ。
「はやぶさ」は、日本時間の11月25日22時頃から降下が開始された。実験の続行の可否の判断が下されるのは26日6時頃、続行の場合の着陸・試料採取は午前7時頃となる。着陸したか否かが判明するのは26日の午前11時頃だ。このニュース編集時には、正式な発表はなされていないが、「はやぶさ」管制室のライブ映像(音声なし)を通して、関係者の“Vサイン”が写し出された。結果報告は13時頃となる見通しだ。