大型望遠鏡VLTが131億光年かなたの銀河を確認

【2010年10月27日 ESO

ヨーロッパ南天天文台(ESO)の大型望遠鏡(VLT)による観測で、はるかかなたに存在する銀河「UDFy-38135539」までの距離が明らかになり、これまでに分光観測によって距離が計測された中ではもっとも遠い131億光年かなた、つまり宇宙がたった6億歳程度だったころの銀河であることがわかった。


(再電離時代の銀河のシミュレーション画像)

再電離時代の銀河のシミュレーション画像(電離化した領域は青っぽい半透明、電離化最中の領域は赤と白、中間の領域は暗く半透明で示されている)。クリックで拡大(提供:M. Alvarez), R. Kaehler, and T. Abel)

(2009年に撮影されたハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールドの赤外線画像(右側の赤丸が「UDFy-38135539」))

2009年に撮影された「ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールド」と呼ばれる領域の赤外線画像(左側の赤丸が「UDFy-38135539」)。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, G. Illingworth (UCO/Lick Observatory and University of California, Santa Cruz) and the HUDF09 Team)

宇宙で最初に形成された銀河の研究はそう簡単ではない。遠方の銀河から放たれる光は、地球に届くまでにはひじょうに暗くかすかなものとなってしまう。さらに、宇宙が膨張しているために、かすかな光のほとんどは赤外線の波長に引き伸ばされてしまう。そのうえ、ビッグバンから10億年も経っていないころの宇宙では水素ガスが霧のように立ち込めていて、若い銀河から放たれる強い紫外線は吸収されてしまっているのだ。

霧が晴れ始めたのは、宇宙で最初に形成された星が放つ紫外線によって水素ガスがゆっくりと再び電子と陽子に分解される、いわゆる「宇宙の再電離」が起きていた時代である。このプロセスはビッグバンから約1億5000万年から8億年ごろまで続いたと考えられている。それ以前の宇宙はというと、ビッグバン後に宇宙の温度が下がって電子と陽子が結合してできた暗く冷たい中性水素ガスが主な成分であったために、輝く天体は存在していなかったと考えられている。

ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が2009年に行った観測によって、宇宙再電離時代に相当する、これまででもっとも遠い距離に位置する銀河の候補が発見された。しかし、銀河までの距離を計測するにはVLTのような地上に設置された大型望遠鏡を使った分光観測に頼るほかない。

仏・パリ天文台のMatt Lehnert氏らの研究チームは、HSTによる発見の公表を受けて早速銀河までの距離の仮計算を行い、高い集光力を誇るVLTによって銀河を発見できるかもしれないと考えた。同望遠鏡に搭載されている赤外線分光器「SINFONI」と長時間露出による観測で、ひじょうに遠い銀河からの光の検出はもちろん、距離の計測も可能と考えたのである。

研究チームでは、もっとも遠い銀河の候補の1つである「UDFy-38135539」をVLTで観測し、得られたデータを約2か月かけて慎重に分析した。その結果、ひじょうにかすかなながら、はっきりと水素の光が検出された。さらに分光観測から、赤方偏移(※)の値が8.6に達していること、つまりビッグバンからたった6億年後の宇宙に存在している銀河であることを確認したのである。

今回の発見で注目すべきは、UDFy-38135539が放つ光だけでは水素の霧を晴らすにはじゅうぶんではなかったらしいという点だ。研究チームの英・ダーラム大学のMark Scinbank氏は「UDFy-38135539の近くに別の銀河が複数存在しているに違いありません。おそらくそれらはUDFy-38135539よりももっとかすかで小さいのです。それらが周囲を透明にする手助けをしたのでしょう。そうでなければ、UDFy-38135539の検出は不可能だったはずです」と話している。

※赤方偏移:宇宙膨張により地球と天体が遠ざかっているために天体からの光の波長が伸びて赤に寄っている度合いを示す値。遠方の天体ほど速く地球から遠ざかり波長が伸びるため、赤方偏移の値は大きくなる。