私たちは天の川銀河の中心「いて座A*」を「真下から」見ている

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アルマ望遠鏡の観測データから、天の川銀河の中心ブラックホール「いて座A*」のミリ波強度に52分周期の変動が見つかった。このデータの解析によると、私たちはブラックホールを「ほぼ真下」から見ていることになる。

【2025年12月9日 慶応義塾大学

天の川銀河の中心には、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール「いて座A*(Sgr A*)」が存在する。いて座A*では明るさの周期的変動が観測されていて(参照:「天の川銀河の中心ブラックホール「いて座A*」の瞬きを検出」)、その一部はブラックホールの周囲に広がる降着円盤内の加熱されたガス塊「ホットスポット」と関係があると考えられている。

慶応義塾大学の柳澤一輝さんたちの研究チームは、アルマ望遠鏡が観測したいて座A*の7年分のデータを解析し、2021年7月22日のデータ中に約52分周期の非常に鮮明な正弦波的変動を見つけた。この変動は、いて座A*から0.3天文単位(4500万km)の距離を光速の約3分の1で周回するホットスポットによる、相対論的ドップラービーミングで生じているものと解釈される。

光度曲線
(a)アルマ望遠鏡による2015年~2022年のいて座A*の光度曲線。観測のギャップを取り除き、周期的な変動が検出された部分を色分け。(b)2021年7月22日に得られた鮮明な正弦波振動(提供:慶応義塾大学リリース、以下同)

さらに解析結果からは、降着円盤の傾斜角が172°であることも判明した。私たちがブラックホールの降着円盤を「ほぼ真下から」(=ブラックホールの回転軸に沿った方向から)見ていることに対応する。

いて座A*を周回するホットスポットの模式図
いて座A*を周回するホットスポットの模式図。(上)可視光線で見た天の川。(左下)天の川銀河中心にある分子ガスからなる「核周円盤」と電離ガスの「ミニスパイラル」。(右下)超大質量ブラックホール周囲の降着円盤とホットスポット。図は地球からの視点で描かれており、矢印はそれぞれの回転方向を示す

今回の研究成果は、ブラックホールの周りの構造やそこで起こる相対論的な物質の運動を直接とらえた貴重な観測的証拠として、ブラックホールの物理を理解するうえで重要なものとなる。今回の結果を元に、一般相対性理論を用いたシミュレーションの精度向上が見込まれる。

また、今後いて座A*の長時間・高頻度の観測が実現すれば、短期的な周期性の発生・進化・消失がとらえられ、ガスがブラックホールを周回しながら吸い込まれていく様子も見えてくると期待される。その成果は、ブラックホールの降着現象の理解に大きく寄与することだろう。

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