自転する白色矮星でIa型超新星の謎を解明
【2012年9月6日 慶応義塾大学】
2つの説の間で論争が続いているIa型超新星の起源について、観測上の矛盾を最も上手く説明できる理論研究の成果が発表された。謎を解くカギは白色矮星の自転にあったという。
Ia型超新星爆発の2つの説
超新星は星が大爆発をする華麗な現象として知られているが、超新星のなかでもIa型と呼ばれる超新星は、宇宙の加速膨張の発見につながる「標準光源」や鉄を主とした元素の起源などとして、極めて重要な役割を持っている。
その爆発のメカニズムとして、連星系中の白色矮星で核反応が暴走して爆発するというモデルが受け入れられているが、その起源をめぐっては、2つの白色矮星が合体する説(Double Degenerate: DD説)と、白色矮星に相手の星(伴星)からのガスが降着して重くなり爆発するという説(Single Degenerate: SD説)との間で論争が続いている。
SD説では、白色矮星が伴星からガスを受けとり、限界まで重くなると爆発的に核反応が進行してIa型超新星になると考えられている。超新星爆発を起こす直前の状態では、白色矮星と連星系をなす伴星として、赤色巨星か主系列星が考えられていた。また、超新星爆発が起こる白色矮星の質量の限界は、チャンドラセカール質量(太陽質量の約1.4倍)であると考えられてきた。
考慮すべき白色矮星の高速自転
ところが、白色矮星がチャンドラセカール質量を越えて爆発するケースが考えられるようになってきた。白色矮星がガスを受け取るときには、コマ回しのようにガスの角運動量も受け取るため、白色矮星は高速で自転しているはずだ。自転が非常に速い場合には、遠心力のために中心密度が低くなり、白色矮星全体の質量がチャンドラセカール質量より大きくなっても、すぐには超新星爆発をすることができず、かなり時間がたって自転が遅くなってから爆発すると考えられる。
一方、白色矮星が爆発しないでいるうちに、伴星が進化して白色矮星になってしまう。つまり、連星系は白色矮星のペアとなる。ただし、距離が離れていて合体はしない。また、これらはとても暗くガスもまとっていないため、重い方の白色矮星の自転が遅くなって爆発したとき、ガスも観測されない。
高速自転もカバーした新たな理論研究
東京大学大学院総合文化研究科の蜂巣泉准教授、慶應義塾大学理工学部の加藤万里子教授と東京大学カブリIPMUの野本憲一教授の研究グループでは、これらの経過を定量的に見積もり、SD説で連星系の進化をシミュレーション計算し(たとえば主系列星2つからなる連星系が1000個あった場合)、最終的にどのくらいの重さの白色矮星が何割できるかを割り出した。白色矮星の質量は超新星爆発時の明るさと関連する(重いほど明るい爆発になる)。求めた結果は、これまで観測された超新星の明るさの頻度分布と一致していた。
これまで大部分のIa型超新星は爆発前に暗く、周囲のガスも検出されていなかったことから、DD説が有力との見方もあったが、今回の研究では、SD説においても大部分のIa型超新星は爆発前に暗くガスも存在しないことを示し、さらに、明るいIa型超新星と暗いIa型超新星の数の分布についても理論的に解明した。
これまでのSD説では、爆発前の天体は周囲にガスがあるものが圧倒的に多いことが難点とされてきた。今回の研究はそれを覆し、爆発前に暗くガスも検出されないIa型超新星が大部分で、一方、ガスがあるIa型超新星も少ないが確実に存在することを理論的に説明し、定量的にも観測的統計と一致することを示した。