かみのけ座銀河団に見つかった多数の「腕」

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【2013年9月25日 JAXA

アメリカと欧州のX線天文衛星の観測から、3億光年かなたの「かみのけ座銀河団」に高温ガスの長い「腕」が多数発見された。銀河団同士の衝突を経てきた巨大天体の歴史を示すものだ。


かみのけ座銀河団の中に見つかった、X線で輝く巨大な腕

かみのけ座銀河団の中に見つかった、X線で輝く巨大な腕。チャンドラによるX線画像(赤)と、SDSSの可視光画像(白・青)の合成。とくに明るいX線放射のみを表示しているが、高温ガスは視野内にまんべんなく広がっている。クリックで拡大(提供:X-ray: NASA/CXC/MPE/J.Sanders et al, Optical: SDSS)

独マックス・プランク研究所のJeremy Sanders博士やJAXA招聘研究者のAurora Simionescu博士らの研究チームがNASAの天文衛星「チャンドラ」とヨーロッパ宇宙機関(ESA)の「XMMニュートン」を用いたX線観測から、およそ3.2億光年彼方のかみのけ座銀河団に、50万光年以上の長さに伸びている高温ガスの巨大な「腕」を多数発見した。1つの銀河団にこのような高温ガスの長い腕が多数発見されたのは初めてのことだ。

かみのけ座銀河団は、中心に1つではなく2つの巨大楕円銀河を持つ珍しい銀河団だ。これらはおそらく、かつてこの銀河団と衝突した2つの大銀河団の、それぞれ最大の銀河の名残と考えられる。

今回発見された腕も、かみのけ座銀河団が小さな銀河群や銀河団との衝突を経て巨大な天体集合体になった過程を物語る痕跡だ。これらの腕は、かみのけ座銀河団に突っ込んできた小さな銀河団のガスが、かみのけ座銀河団の高温ガスではぎ取られることでできたと考えられる。

研究チームでは、腕のサイズやガス中の音速(=密度のむらが伝わる速度。この場合は時速約400万km)などを手がかりに推算し、腕が形成された時期をおよそ3億年前と見積もっている。

画像左下の2つの腕は銀河団中心部から200万光年離れた銀河群につながり、さらに150万光年以上、銀河団中心部付近の大構造まで伸びている。観測データからはとてもかすかな「尾」を持つ銀河も見つかっており、おそらく、銀河団や銀河群だけでなく個別の銀河からも高温ガスがはぎ取られている証拠と推測される。

ほとんどの理論モデルでは、銀河団同士の衝突で高温ガスの強い乱流が引き起こされることが予想されている。にもかかわらず今回発見されたのは、滑らかな形状の長い腕だ。何度も衝突を起こしたかみのけ座銀河団の中の高温ガスが意外にも穏やかな状態にあるという驚くべき事実を示している。これについては大規模な磁場が原因とも考えられるが、銀河団内の乱流の推測については不確定な要素が多く、他の銀河団をさらに観測していく必要がある。