火星の南極の地下に液体の水を検出

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火星探査機「マーズエクスプレス」の観測データから、火星の南極の地下に幅20kmにわたって液体の水が存在する兆候が示された。

【2018年8月1日 ヨーロッパ宇宙機関

火星の表面には、川の流域が干上がってできた網の目状の跡や大規模な洪水でできた地形など、過去に液体の水が存在していた証拠が見つかっている。しかし、気候変動によって表面の水は失われたと考えられており、現在の火星の表面に液体の水は見つからない。

そこで研究者たちは、火星の地下を調べている。ヨーロッパ宇宙機関の火星探査機「マーズエクスプレス」はこれまでの約15年にわたる探査のなかで、水の氷が極域に存在することなどを明らかにしてきた。しかし、液体の水が存在しているかどうかは、依然としてはっきりしていなかった。

伊・天文物理研究所のRoberto Oroseiさんたちの研究チームは、マーズエクスプレスのレーダー測定器「MARSIS」のデータから火星の地下構造を調べた。火星に照射したレーダーがはね返ってくる信号からどんな物質が存在するかがわかり、地下の地形をマップ化することができる。

その結果、火星の南極領域が塵や水の氷でできた多くの層から構成されていることが示された。層の深さは約1.5kmまで続いており、幅は200kmの領域に広がっている。さらに、その層を成している堆積物の下に、幅20kmにわたって特に明るいレーダー反射が見られた。

火星の南極の地下にある堆積物の層
ヨーロッパ宇宙機関とロシア・ロスコスモスによる火星探査ミッション「エクソマーズ」の周回機「TGO」がとらえた、火星の南極にある堆積物の層。峡谷で切られているおかげで内部の層構造が見えている(提供:ESA/Roscosmos/CaSSIS, CC BY-SA 3.0 IGO)

分析したデータ、そして堆積物の組成や地下の予想温度分布から、明るい部分は液体の水が染みこんだ堆積物と氷との境界面であると判断された。MARSISの検出能力の下限からすると、液体の水の厚みは少なくとも数十cm以上とみられている。

「レーダーの特徴は、水か、または水を多く含む堆積物と一致します。地下に水が溜まっている未発見の場所が他にもあるかもしれません」(Oroseiさん)。

火星の南極の地下で見つかった液体の水
(左)火星の南極域。四角内は今回調査が行われた200km四方の領域。上の白い部分は極冠。(中)反射したレーダー(レーダーエコー)の強さを表した画像。青い部分がエコーが強い。背景の灰色はNASAの火星探査機「マーズオデッセイ」の熱放射撮像器による。(右)火星の地下のレーダー画像。矢印は左からそれぞれ、表面、氷や塵の層、液体の水の存在が示唆されているレーダーエコーの最も強い場所(水色の部分)。画像クリックで表示拡大(提供:Context map: NASA/Viking; THEMIS background: NASA/JPL-Caltech/Arizona State University; MARSIS data: ESA/NASA/JPL/ASI/Univ. Rome; R. Orosei et al 2018)

「これまでの探査でも、地下にある興味深い特徴の手がかりは見つかっていましたが、周回軌道上からの探査ではサンプリング処理の回数やデータの解像度が十分ではなく、データの再現性がありませんでした。今回は運用方法を変えて29回の探査を行うなどした結果、これまで不可能だったものが見えるようになったのです」(MARSIS運用マネージャー Andrea Cicchettiさん)。

今回の発見は、地球の南極大陸の氷の約4km下に存在する「ボストーク湖」を想起させる。ボストーク湖には数種類の微生物が繁殖していることが知られているが、火星の地下の湖は、現在あるいは過去に生物に適した環境である(あった)だろうか。この謎については今後も探査や研究が続けられていくだろう。

「今回の発見は、惑星科学において非常に興味深いものです。火星の進化や水の歴史、生命に適した環境の有無についての理解を深めてくれることでしょう」(マーズエクスプレス プロジェクトサイエンティスト Dmitri Titovさん)。

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