惑星誕生の現場をピンポイントで特定
惑星は、若い恒星を取り巻く塵とガスの円盤(原始惑星系円盤)の中で形成されると考えられている。原始惑星系円盤には最初、数μmから数mmの微小な塵が存在しており、この塵が時間とともに合体し成長することによって惑星の種(微惑星)となる。この微惑星が自身の重力によって周りの塵やガスを取り込みながら成長し、最終的に惑星となる。
その際、取り込まれる物質は、惑星の周囲を回転する円盤状の構造(周惑星円盤)を作ることが理論的に予測されている。周惑星円盤の大きさは原始惑星系円盤全体の約1%と、非常に小さいものだと考えられており、これまでの観測では周惑星円盤は見つかっていない。
国立天文台の塚越崇さんたちの研究チームは惑星誕生の詳細なプロセスを調べるため、原始惑星系円盤の存在が知られている若い星「うみへび座TW星」をアルマ望遠鏡で観測した。うみへび座TW星は地球から194光年の距離にあり、年齢は約1000万歳と見積もられている。若い星の中では最も太陽系から近く、太陽と同じくらいの重さの恒星であることから、太陽系の起源を知る手がかりになる天体として多くの観測が行われてきた。
従来の観測の約3倍という非常に高い感度で、うみへび座TW星の原始惑星系円盤の詳細な電波強度分布を調べたところ、円盤内に、これまで見つかっていなかった小さな電波源が1つ発見された。この電波源は円盤の中心から約78億kmの距離(太陽~海王星の約1.7倍)に位置し、周囲に比べて1.5倍ほど電波が強くなっている。また、長さ6億km程度、幅1億5000万km程度に広がっており、円盤の回転方向にわずかに伸びている。このような微小な電波源が原始惑星系円盤内に見出されたのは今回が初めてのことだ。
小さな電波源の正体については、主に2つの可能性が挙げられている。まず1つは周惑星円盤だ。その場合、発見された構造の大きさから見積もると、中心には海王星質量程度の惑星が形成されていると考えられる。
赤外線波長の観測では明るい天体が見られないことや、円盤中のこの位置に隙間が見られないことから、この距離に木星質量程度の重い惑星は存在しないと考えられてきた。その上で、海王星質量程度の軽い惑星が存在するかどうかについてはわかっていなかったが、今回の観測結果から、そのような軽い惑星が存在する可能性が示された。
一方で、観測された電波強度は、海王星サイズの惑星を取り巻く周惑星円盤と考えるにはやや強すぎるという問題がある。また、周惑星円盤であれば惑星を中心とした円形であると想定されるが、観測された電波源の形は楕円形という点も不自然だ。
電波源の正体としては、小さいガス渦に溜まった塵だという可能性もある。地球で高気圧や低気圧が発生するように、原始惑星系円盤内でも局所的に渦を巻く流れがたくさん存在すると考えられており、そこに塵が掃き集められて溜まっているというものだ。これは、塵が合体して惑星になる最初期段階の重要な構造といえる。渦にとらえられた塵は楕円状に広がると理論的に予言されており、今回の観測によって見出された電波源の構造とよく一致している。ただし、そのような小規模の高気圧が原始惑星系円盤内に1つだけ存在することは不自然でもある。
今回の観測結果は「周惑星円盤説」と「ガス渦説」のどちらとも一致する部分と不自然な部分の両方を持ち合わせており、正体を正確に突き止めるには至っていない。しかし、いずれであるにせよ、惑星形成のプロセスの重要な部分を初めてピンポイントで観測できたという点で、大きな意義のある成果だ。
「形成中の惑星は周囲の物質を取り込む際に温度が高くなるため、周惑星円盤の内縁が特に温められます。アルマ望遠鏡で、より高い解像度の観測を行うことで、今回発見された電波源の内部の温度分布を明らかにし、その中心に惑星があるかどうかを確かめたいと考えています。また、すばる望遠鏡などを使って、惑星の周囲にある水素が高温になった時に放つ光を観測する準備も進めています」(塚越さん)。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:アルマ望遠鏡、惑星誕生の現場をピンポイントで特定
- The Astrophysical Journal Letters:Discovery of An au-scale Excess in Millimeter Emission from the Protoplanetary Disk around TW Hya 論文
〈関連リンク〉
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