小惑星帯の天体の一部は、木星より遠くで作られ移動してきた
【2019年7月9日 茨城大学】
太陽系の小惑星は現在、火星と木星の公転軌道の間にある小惑星帯に集中して存在している。こうした小惑星がどこで形成されたのかを知ることは、現在の太陽系惑星の姿がどのように構築され、惑星の材料となった物質はどのようなものであったかという重要な問題を解決するための糸口となる。
小惑星の形成位置を推定するには、小惑星を母天体とする隕石中の炭素化合物など凝固点の低い揮発性成分が重要な手がかりとなる。水を多く含む始原的隕石(炭素質コンドライト)には、母天体において水と岩石との反応で形成された炭酸塩鉱物が存在する。そこに含まれる炭素は、母天体に存在した揮発性の炭素化合物に由来すると考えられるものの、その起源はわかっていなかった。
茨城大学の藤谷渉さんたちの研究チームは、2000年1月にカナダ西部に落下した「タギシュ・レイク隕石」に豊富に含まれている炭酸塩鉱物の炭素同位体比(炭素13と炭素12の量比13C/12C)を分析し、炭素の由来を推定した。
その結果、炭酸塩鉱物の炭素同位体比は一様で、地球の標準物質と比較して7%も13Cに富んでいることがわかった。これほど13Cに富む有機物は極めてまれであり、さらに隕石に含まれる炭酸塩鉱物が(炭素量で)1.3重量%と大量であるため、この炭素が有機物由来である可能性は低い。
有機物以外に炭酸塩鉱物に炭素を供給できる物質として最も可能性が高いのは、母天体に固体として含まれていた二酸化炭素(ドライアイス)と考えられる。ドライアイスは凝固点が摂氏マイナス200度(0.0001気圧程度の宇宙空間での数値)と低いことから、今回の分析結果は、ドライアイスが存在できる低温環境下でタギシュ・レイク隕石の母天体が形成された可能性が高いことを示している。
つまり、タギシュ・レイク隕石の母天体が形成されたのは太陽から遠い、木星軌道以遠であったと考えられる。今回推定したドライアイスの炭素同位体比やこの隕石に含まれる二酸化炭素と水の量比は、彗星の観測値と矛盾しない。
タギシュ・レイク隕石は、小惑星帯の外縁や木星のトロヤ群小惑星(木星軌道上で木星の前後に集団で存在する小惑星の一群)に多く存在する「D型小惑星」から飛来したとみられている。理論モデルによると、約40億年間に木星型惑星の軌道が変化し、その際に太陽系外縁天体が小惑星帯やトロヤ群領域に移動した可能性があると考えられており、今回の結果はそのシナリオと調和的だ。小惑星の形成と軌道進化の過程を実験データで示した初めての成果である。
小天体の移動が起こっていたのであれば、地球型惑星が存在する内惑星領域にも、外惑星領域で形成された物質が存在する可能性がある。地球大気に含まれるキセノンのうち20%は彗星物質に由来するという報告もあり、地球の大気や海洋を含む、惑星に存在する揮発性物質の起源を探るうえでも重要な知見をもたらす研究成果といえる。
隕石の炭酸塩鉱物がドライアイスの存在量、すなわち周囲の温度を示す指標となる可能性を示した今回の成果により、今後小惑星の形成過程の解明が進むことが期待される。探査機による小惑星や彗星の調査にとっても、タギシュ・レイク隕石の分析結果は有用なデータとなるだろう。
〈参照〉
- 茨城大学:小惑星が外惑星領域から移動してきたことを初めて実験データで証明
- Nature Astronomy:Migration of D-type asteroids from the outer Solar System inferred from carbonate in meteorites 論文
〈関連リンク〉
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