惑星形成過程にヒントを与える、若い星の周りの稀な分子

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アルマ望遠鏡による観測から、稀な種類の一酸化炭素の同位体分子種が、若い星を取り巻く原始惑星系円盤で初めて発見された。この結果に基づいて円盤中のガスの量を正確に見積もると、従来考えられていた量の2~6倍も存在していることがが明らかになった。

【2019年10月16日 アルマ望遠鏡リーズ大学

いて座の方向約330光年の距離にある形成途中の若い星「HD 163296」は、周囲に塵とガスの円盤(原始惑星系円盤)が存在していることが知られており、これまでにアルマ望遠鏡による様々な観測研究が行われてきた。たとえば、塵が放つ電波の観測からは複数のリング構造が発見されていて、円盤内で誕生中の巨大惑星との関連が指摘されている(参照:「若い星の周りに生まれたばかりの惑星の存在証拠」)。

若い星を取り巻く原始惑星系円盤の想像図
若い星を取り巻く原始惑星系円盤の想像図(提供:ESO/ L. Calçada)

英・リーズ大学のAlice Boothさんたちの研究チームは、この原始惑星系円盤をアルマ望遠鏡によって高感度観測し、分子量が異なる複数の一酸化炭素の同位体分子種(アイソトポマー)の中で、最も量が少ない13C17Oが放射する極端に弱い電波を検出することに成功した。原始惑星系円盤で13C17Oが検出されたのは初めてだ。

HD 163296の原始惑星系円盤
アルマ望遠鏡で観測した「HD 163296」を取り巻く原始惑星系円盤の擬似カラー画像。(緑)今回新しく検出された13C17Oガスの分布、(赤)多重リング構造を示す塵の放射分布、(青)量が多い12C16Oガスの分布(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), University of Leeds)

原始惑星系円盤において、一酸化炭素は一般的に水素分子の次に量が多く、また水素分子と比べて円盤の低温部まで簡単に観測できるため、円盤のガスの量や分布を調べる上でとてもよく使われる分子である。

数ある一酸化炭素の同位体分子種の中でも、量が多い12C16Oといった同位体分子種が放つ電波は強度も大きいため、よく観測される。しかし、量が多すぎるため、円盤の赤道面のような密度の高い領域では一酸化炭素分子自身が電波を吸収してしまい、地球から観測した時の電波が本来よりも弱くなり、ガスの量を少なく見積もってしまうという問題があった。

今回の研究では、一酸化炭素の同位体分子種の中で最も量が少ない13C17Oが放つ電波をとらえることで、円盤の赤道面に隠されていたガスをもれなく観測することに成功し、円盤のガス量を正確に見積もることができた。その結果、円盤がこれまで考えられていたよりも重く、多くのガスを含むことが明らかになった。

「この原始惑星系円盤が従来の想定より2倍から6倍ほど多くのガスを保持していることが示されました。この結果は、円盤での惑星形成過程を考える上でたいへん重要な発見になります。円盤がガスを大量に含んでいる場合、木星のような重い惑星をより大量に形成することができるからです」(Boothさん)。

近年の原始惑星系円盤観測の結果に基づくと、円盤に含まれるガスと塵の量が少なく、太陽系の外で発見された系外惑星の質量分布を説明するには不十分なのではないかという問題がこれまでに指摘されていた。「惑星がいつ、どうやって形成されたのか。この問いに答える上でも、原始惑星系円盤と系外惑星の質量が一致しないという点は非常に深刻な問題でした。しかし、今回観測したHD 163296と同様、他の天体の円盤でも大量のガスが隠されていたとすれば、単に円盤のガスを少なく見積もりすぎていただけということになります」(リーズ大学 John Ileeさん)。

研究チームでは、アルマ望遠鏡を用いて他の原始惑星系円盤でも、13C17Oという稀な一酸化炭素分子を観測できると期待している。「原始惑星系円盤のガスの量を正確に測定することは、地球や木星のような惑星の材料となる物質の量を正確に測ることでもあり、惑星形成過程を明らかにする上で欠かすことができません。今後、今回と同様の観測によってより多くの原始惑星系円盤で隠されたガスの量を見積もり、惑星形成の可能性を探っていきたいと考えています」(オランダ・ライデン大学 野津翔太さん)。

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