日本天文遺産にキトラ古墳天井壁画など3件認定
日本天文学会は、2018年から国内の歴史的に貴重な天文学・暦学関連の史跡や文献を「日本天文遺産」として認定し、それらの保存や普及、活用を図っている。第2回目(2019年度)の遺産は、奈良県明日香村の「キトラ古墳天井壁画」、新潟県三条市の「明治20年皆既日食観測地及び観測日食碑」、東京都三鷹市の「6mミリ波電波望遠鏡」が選定された。
キトラ古墳天井壁画
奈良県高市郡明日香村に現存するキトラ古墳は、7世紀末から8世紀はじめころに造営された。1983年の調査で石室内の壁画が発見され、さらに1998年の調査で石室の天井に天文図、日像、月像が描かれていることが判明している。
天文図には、約360個の恒星による74の星座(中国の星座体系)が確認されているほか、内規(北極星を中心とした地平線に沈まない星の範囲を表す円)、外規(南の地平線上に昇る星の範囲を表す円)、黄道、赤道の4つの円が描かれている。星や円の配置から、天文図の元になった観測は古墳の造営より前に飛鳥以外の地で行われたとみられる。研究者によって年代や観測地の緯度に相違はあるものの、観測地は中国大陸か朝鮮半島だと推論されている。
キトラ古墳天井壁画は、古代における天文学の水準のみならず、アジア大陸から日本への科学知識や文化の流入を知ることができるものであり、天文図は科学的な分析に耐えうる本格的な星図として、天文学史上きわめて重要といえる。
明治20年皆既日食観測地及び観測日食碑
「明治20年皆既日食観測地及び観測日食碑」は、日本における最初の近代的な皆既日食が行われた新潟県三条市にある。
1887(明治20)年3月19日の皆既日食は、新潟県から福島県・茨城県にかけて皆既帯が通り、皆既帯の幅は約220km、その中心は新潟県三条市、栃木県那須塩原市、茨城県高萩市を結ぶ線上にあって、専門家だけでなく一般市民の多数が観測に参加した。外国からも観測隊が来日するなど、日本で最初の近代的な日食観測となった。
日食当日、皆既帯上の各地に専門家たちが観測隊を展開したが、天候に恵まれて日食が観測できたのは千葉県銚子市と三条市に限られた。とくに三条市の永明寺山頂では望遠鏡によるコロナの写真撮影にも成功し、国外の文献でも報告されている。
同観測場所には地元住民によって日食観測の記念として建立された「観測日食碑」があり、観測場所は明瞭だ。日本における初の近代的皆既日食観測地として記憶されるべき価値を持つといえる。
6mミリ波電波望遠鏡
日本の宇宙電波観測は、国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡や南米チリのアルマ望遠鏡などにより大きな発展を遂げている。その礎となったのが、東京都三鷹市の国立天文台内に保存公開されている、口径6mのミリ波電波望遠鏡だ。
同望遠鏡は、技術的には難しいが小型のパラボラでも成果が期待できるミリ波に着目した赤羽賢司さんや森本雅樹さんらのグループが、三菱電機や法月鉄工といった企業からの協力も得て、1970年に完成させた。ほぼ同時期に米国で建設された2基に続く、世界で3番目のミリ波電波望遠鏡である。
6mミリ波電波望遠鏡はオリオン座大星雲で星間分子「メチルアミン」や「パラホルムアルデヒド」を検出したり、天の川銀河中心部を星間分子のHCNや HCO+でマッピング観測したりするなどの成果を挙げ、その後の野辺山45m電波望遠鏡計画の推進に大きな役割を果たすこととなった。
1984年に三鷹での運用を終了した後も、水沢観測所を経て野辺山へ移され、VLBI天文観測に成功するなどの成果を挙げた。1993年にはさらに鹿児島に移設され、日本列島全体に広がるVLBI観測網の一翼を担った。2018年10月には再び三鷹の地へと戻り、現在は歴史的望遠鏡として保存・公開されている。
日本天文学会各賞の受賞者
新天体の発見や観測などに貢献した天文家や研究者らに贈られる、日本天文学会各賞の受賞者は以下のように発表されている。
- ●天体発見賞(2氏10件):
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- 板垣公一さん(9件)、藤川繁久さん(1件)
- ●天体発見功労賞(5氏1グループ7件):
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- 西村栄男さん(2件)、小嶋正さん(1件)、中村祐二さん(1件)、山本稔さん(1件)、西山浩一さん・椛島冨士夫さん(1件)、金子静夫さん(1件)
- ●天文功労賞(2氏2件):
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- 広沢憲治さん、早水勉さん
※ほか、林忠四郎賞、欧文研究報告論文賞、研究奨励賞、天文教育普及賞も発表されている(受賞者一覧)。
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