宇宙の大規模構造中のガス、80億年で温度が3倍上昇

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宇宙の大規模構造中の高温電子ガスの観測から、ガスの平均温度が過去80億年間に約3倍上昇したことが示された。

【2020年11月18日 カブリIPMU

誕生直後の宇宙には小さな密度のゆらぎが存在していたと考えられている。現在の標準的な理論では、宇宙初期の密度ゆらぎが種となり、周囲の暗黒物質やガスを引き寄せて銀河や銀河団が生まれ、網の目状に広がる宇宙の大規模構造を形成してきたと考えられている。大規模構造の形成にはまだ謎が多く残されており、様々な手法を用いて過去から現在まで構造形成の進化の様子が調べられている。

大規模構造内のガスの温度と暗黒物質の密度の進化
コンピューターシミュレーションによる宇宙の大規模構造内のガスの温度(上図)と暗黒物質の密度(下図)の時間進化。時間は左図から右図へ流れ、一番右の図が現在の宇宙に対応する(提供:D. Nelson / Illustris Collaboration)

米・オハイオ州立大学のYi-Kuan Chiangさんたちの研究グループは、宇宙の大規模構造の進化に伴って大規模構造中のガスの平均温度がどのように変化してきたかを調べた。

Chiangさんたちは、ヨーロッパ宇宙機関の天文衛星「プランク」が取得した宇宙マイクロ波背景放射(CMB)のデータと、スローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)による200万個もの天体の分光観測データを組み合わせ、スニヤエフ・ゼルドヴィッチ効果(SZ効果)を用いた解析を行った。

SZ効果は、CMBの光子が宇宙の大規模構造を通過する際、大規模構造内にガス状に存在する高温の電子によってCMBの光子が散乱されることで生じる。散乱によってCMBの光子は高温の電子からエネルギーを受け取り、大規模構造を通過しない他の光子に比べて高いエネルギーを持つようになる。このSZ効果の強さは高温電子ガスの熱的圧力に比例するため、光子のエネルギー変化を調べれば大規模構造中の高温電子ガスの温度を測定することができる。

Chiangさんたちの解析の結果、約80億年前のガス中の電子の平均温度は70万Kだったが、今はその3倍程度の約200万Kにまで上昇していることがわかった。さらに、理論モデルとの比較により、ガスの温度の進化が、宇宙の大規模構造の形成に伴う衝撃波による加熱でほぼ説明できることも示された。

宇宙の温度進化
測定された宇宙の温度進化を表すグラフ。データ点は測定値を示し、赤色で覆われた領域は物理モデルが示す範囲。青色の四角の領域は、ガスを加熱する宇宙大規模構造の重力エネルギーの推定値を示し、この値は現在測定されている宇宙の温度を説明できる(提供:Chiang et al.)

「宇宙の温度の時間進化を理論的に計算したのは2000年でした。それから、スニヤエフ・ゼルドヴィッチ効果を用いてこれを実際に測定する手法を練ってきましたが、近年の観測データの爆発的な進展と、優秀な若手研究者の努力のおかげで、ついに宇宙の温度の時間進化を測ることに成功しました。感無量です」(カブリIPMU/独・マックス・プランク宇宙物理学研究所 小松英一郎さん)。

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