深層学習モデルで宇宙構造の形成過程をすばやく正確にシミュレーション
【2019年8月30日 カブリIPMU】
生まれたばかりの宇宙では物質の分布はほぼ一様だったが、宇宙が年齢を経るとともに、膨張宇宙における物質間の重力の相互作用によって、濃い領域はどんどん濃く、薄い領域は薄くなっていった。その結果、現在でも見られる「宇宙の網目状構造」と呼ばれる大規模構造が形成されたと考えられている。
米・カーネギーメロン大学等に所属するSiyu Heさんたちは、この宇宙の大規模構造が作られる過程を機械学習によって調べた。機械学習は、パターンを見つけたり予測を立てたりするのに用いられる最先端の手法である。
研究では、ある人の若いころの顔写真から年老いたときの顔画像を機械学習で予測するように、宇宙初期の物質分布のデータ(正確には質量密度の空間分布)から宇宙の進化の予測を試みた。そして、1辺の長さが数億光年もの巨大な空間のシミュレーションデータを「ニューラルネットワーク」と呼ばれる手法で学習することで、宇宙の構造が作られる過程を瞬時に模倣する深層学習モデルを作ることに成功した。
従来から用いられている手法のうち、「解析計算」は計算速度が速く、「数値シミュレーション」は正確さに優れている。これらに対して、機械学習による新しいモデルは、正確性と効率の両方において従来の手法に勝るものだ。
研究チームのLi Yinさん(カブリIPMU特任研究員)は次のように語っている。「今回の研究では、最初のステップとして、宇宙の構造形成でよく用いられるN体シミュレーションに機械学習を適用し、宇宙の構造形成を瞬時に計算する手法を開発しました。銀河の形成・進化などのより複雑な物理現象を正確に計算するシミュレーションはさらに計算時間がかかりますが、機械学習、人工知能を駆使することで、同様に瞬時に理論予言を計算する手法が開発できると思います。これが可能になれば、宇宙の構造形成の研究に革命的な発展をもたらすことができると期待しています。この手法により、宇宙の構造形成の物理過程を解明することだけでなく、宇宙の始まりの初期条件を復元できることも不可能ではないと思います」。
〈参照〉
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