「天空の降灰」が惑星を咲かせている可能性
【2021年12月16日 国立天文台 天文シミュレーションプロジェクト】
惑星の形成に関する現在の理論と観測の間には、「ダスト落下問題」と呼ばれる矛盾が存在する。
生まれたての恒星(原始星)の周囲には、ガスとダスト(細かい塵)が集まった原始惑星系円盤が形成され、その中でダストが集まって成長することによって惑星が作られる。しかし、ダストがある程度大きくなると、公転中にガスからの向かい風を受けやすくなるので減速し、急速に中心の星へと落下してしまうはずだ。つまり、中心星から離れた円盤外縁部ではダストが成長できず、惑星は作られないことになると理論上は考えられるが、現実には恒星からじゅうぶん遠く離れた系外惑星が多数発見されている。
鹿児島大学の塚本裕介さんたちの研究チームは、円盤外縁部でも惑星の形成を可能にする理論的メカニズムを調べるため、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」によるシミュレーションを実施した。すると、中心星近くへ移動したダストが、火山のように巻き上げられて周囲に広まり、火山灰のように円盤外縁部に積もって、惑星の材料になり得ることがわかった。
計算によると、成長して中心方向へ引き寄せられたダストは、ガスの「アウトフロー」によって巻き上げられる。アウトフローとは円盤の磁場などの作用によって、円盤と垂直な方向にガスが噴出する現象だ。アウトフローのガスは基本的にそのまま円盤から離れていくが、ダストは遠心力によってアウトフローから離れ、そのまま円盤外縁部に落下することがわかった。
地球の火山でもガスと微粒子(火山灰)の混合物が火口から噴出し、灰だけが周囲に降り積もる。この類似性から、塚本さんたちは今回再現した現象を「天空の降灰現象」と名付けた。
ダストが降灰した円盤外縁部ではガスが薄くなっているため、ダストを中心へ落下させる抵抗が働きにくくなっている。したがって、今回のシミュレーションでは円盤外縁部でもダストが成長して惑星を形成できることになる。「ダスト落下問題」を解決するブレークスルーになるかもしれない結果だ。
「この天空の降灰現象では、1年で地球の10分の1ほどの質量の灰が降ってきます。こうして円盤に降り積もった灰が、私たちが住む地球のような惑星や、さらには私たちのような生命の素になったのかもしれません」(塚本さん)。
〈参照〉
- CfCA:惑星のゆりかごに降り積もる灰 ― 天空の「降灰」現象の発見
- The Astrophysical Journal Letters:"Ashfall" Induced by Molecular Outflow in Protostar Evolution 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/10/09 ガス円盤のうねりが示す“原始惑星の時短レシピ”
- 2023/10/10 アルマ望遠鏡が惑星形成の「最初の一歩」をとらえた
- 2023/07/28 巨大惑星に収縮する前の塊、若い星の周囲で発見
- 2023/07/13 塵の塊が衝突するだけでは惑星の種にならない
- 2023/06/30 惑星が誕生するタイミングをとらえる
- 2023/04/03 木星と土星の共鳴が鍵、地球型惑星と小惑星帯形成の統一シナリオ
- 2023/03/23 水蒸気で囲まれた原始星に、太陽系の水が経てきた歴史を見る
- 2023/01/17 原始惑星系円盤の内側に隠れていた大量のガス
- 2022/08/26 原始惑星系円盤の一酸化炭素は氷に隠れていた
- 2022/08/18 原始惑星系円盤の内外で異なる物質組成
- 2022/08/15 形成中の惑星を取り巻く円盤からガスを初検出
- 2022/04/12 太陽系の惑星を急成長させた前線
- 2022/04/08 太陽系と異なるプロセスで形成中の惑星
- 2022/03/11 原始惑星系円盤でジメチルエーテルを初検出
- 2022/01/20 星系への侵入者、原始惑星系円盤を乱す
- 2021/12/22 原始惑星系円盤内のダストが散逸するまでの時間
- 2021/11/25 塵粒から巨大ガス惑星まで、成長の道筋を解明
- 2021/11/18 移動する惑星が原始惑星系円盤にリングを作る可能性
- 2021/10/25 地球型惑星や水星型惑星の形成につながる中心星の組成
- 2021/10/11 アルマ望遠鏡が描く双子の星の軌道運動