太陽系の「⽯のタイムカプセル」の特異な模様をシミュレーションで再現

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太陽系初期の情報を保存している始源的隕石に含まれるコンドリュールの数値シミュレーションで、特異な棒状カンラン⽯の形成過程が再現された。初期太陽系の物質進化や惑星形成を理解するうえで重要な成果となる。

【2025年6月2日 名古屋市立大学

小惑星や彗星、隕石に含まれる球状の粒子「コンドリュール」は、約46億年前の初期太陽系において、何らかの過程で加熱溶融した後に急冷凝固することで形成された。その組成や構造は、いわば太陽系初期の謎を解く鍵となる「⽯のタイムカプセル」である。

コンドリュールの中には「棒状カンラン石」という、地球上の岩石には見られない特異な形をしたカンラン石の結晶が含まれている。雪の形が周囲の温度や水蒸気量によって千差万別に変化するように、鉱物の結晶の形も周囲の環境を反映して変化するため、棒状カンラン石の特異な形は、初期太陽系の環境を推測するための重要な手がかりとなる。

太陽系の形成過程、コンドリュール、棒状カンラン石
(左)太陽系の形成過程。形成初期の太陽系でコンドリュールができ、その後に原始太陽系星雲内で形成された微小天体に大量に集積した。(右上)多くのコンドリュールが含まれているコンドライト隕石(S型小惑星から飛来)。(右下)コンドリュールに見られる棒状カンラン石(提供:(右上)東北大学 中村智樹、(右下)H. Miura et al.

名古屋市立大学の三浦均さんたちの研究チームは、溶融コンドリュールが急速に冷えて凝固する過程について数値シミュレーションを実施し、棒状カンラン石の形成メカニズムや形成条件を調べた。その結果、溶融コンドリュールの冷却度合いが大きくなるとカンラン石が急速成長して、コンドリュール周囲を取り巻く縁(リム)が形成されることや、リム内部の微小な凹凸が時間とともに増幅されて、多数の平行な棒状構造が発生することが明らかになった。棒状カンラン石に極めて類似した結晶成長パターンを理論的に再現することに成功した、世界初の成果となる。

棒状カンラン石、棒状カンラン石の模式図、再現されたた結晶生成パターン
(a)コンドリュールに含まれる棒状カンラン石の結晶(白い部分)。(b)棒状カンラン石の模式図。リムと棒状カンラン石(バー)は別々の結晶ではなく、単一の結晶。(c)数値シミュレーションで再現された、棒状カンラン石に類似した結晶生成パターン(提供:名古屋市立大学リリース)

シミュレーションから示されたようなメカニズムで棒状カンラン石が形成されたとすると、溶融コンドリュールの表面に生じた蒸発層が残っているうちに棒状カンラン石が作られる必要がある。そのために必要な冷却速度を理論的に見積もったところ、1秒あたり1℃以上の速さで冷却する必要があることが判明した。これは従来の再現実験が示していた値よりも速く、コンドリュールが従来の考えとはまったく異なる条件で形成された可能性を示唆している。これまでの標準的なコンドリュール形成シナリオは、従来の実験結果に基づいて検討されてきたため、今回の研究成果はそれらのシナリオを根底から見直す必要性を示している。

惑星形成の理論研究によると、コンドリュールのようなミリメートルサイズからセンチメートルサイズの粒子は惑星形成において重要な役割を果たしたことが示唆されている。今回の成果は、初期太陽系における物質進化のみならず、惑星形成に関する理解を飛躍的に進歩させる可能性も秘めている。

研究チームでは国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟の微小重力環境を利用したコンドリュールの再現実験プロジェクト「Space Egg」を計画している。この実験でコンドリュールの模様である特異な形の棒状カンラン石の形成が再現されれば世界初の快挙となり、同時に研究チームによる数値計算手法が実験結果を検証しうる理論解析手法であることが証明される。

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