リュウグウの始原的物質は太陽系で最初期にできたものかも
【2023年2月27日 東北大学】
これまでの初期分析で、リュウグウの試料は「CIコンドライト」という始原的な炭素質隕石に似ていることがわかっている(参照:「リュウグウ粒子からガス成分を検出」)。CIコンドライトは過去に水の作用で鉱物が変化した「水質変成」を経験している隕石の一種だ。また、リュウグウの母天体は太陽から遠く離れた-200℃以下の領域で作られたとみられることが示されているほか、試料の中から「コンドリュール」という微粒子に似た物質や「CAI」というカルシウム・アルミニウムに富む鉱物が見つかっている(参照:「リュウグウ粒子から炭酸・塩が溶け込んだ水を発見」)。
コンドリュールとCAIはともに、原始太陽系星雲の塵が1000~1500℃以上に加熱されて融け、再び固まった物質だ。どちらもコンドライト隕石に含まれており、彗星のサンプルからも見つかっている。ただし、CIコンドライトではコンドリュールやCAIの量は非常に少ない。コンドリュールは太陽系内の広い領域でできたのに対し、CAIは太陽のごく近くでできたと考えられていて、原始太陽系星雲で起こった加熱現象や物質の移動を理解する上で、この2つの物質は非常に重要だ。
東北大学の中嶋大輔さんたちの研究チームは、リュウグウの試料で見つかっているコンドリュールに似た物質(コンドリュール様物質)とCAIを詳しく分析し、隕石のコンドリュール・CAIと比較した。
電子顕微鏡観察では、リュウグウ試料のコンドリュール様物質とCAIは水質変成があまり進んでいない部分にあり、水を含まない「無水鉱物」と一緒に存在することがわかった。このことから、両物質はリュウグウ母天体で水質変成がかなり進んだ後の時代に外から入り込んだのではなく、母天体に元々存在したものだと考えられる。
また、コンドリュール様物質に含まれる酸素の同位体の比率を調べたところ、太陽の同位体比に近いもの(太陽型)と、惑星の同位体比に近いもの(惑星型)にはっきり分かれた。前者は太陽の近く、後者は現在の小惑星帯でできたと考えられる。さらに、リュウグウのコンドリュール様物質は太陽系で最も早い時期にできたコンドリュールと様々な特徴がよく似ていることが顕微鏡観察から判明した。
これらの結果から、リュウグウ試料のコンドリュール様物質のうち同位体比が「太陽型」のものは、太陽のすぐそばで作られた後、「惑星型」の塵と混ざり合うことなく現在まで残った物質だと考えられる。
一方、CAIについても同位体分析や元素分析が行われた。一般に、隕石のCAIは太陽系で最も古い物質で、「スピネル」という鉱物にクロムをほとんど含まないが、彗星のCAIはできた時代が新しく、スピネル中のクロムが多い。分析の結果、リュウグウのCAIは「太陽型」の酸素同位体比を持ち、クロムが欠乏しているという特徴が隕石のCAIに似ていることがわかった。よって、リュウグウのCAIもかなり古い時代に作られた可能性がある。
今回見つかったリュウグウ試料のコンドリュール様物質とCAIは、どちらもサイズが30μm以下と非常に小さく、試料に含まれる量も20ppm以下しかなかった。隕石のコンドリュールとCAIはもっとずっと大きく、存在度も1%以上ある。このことから研究チームでは、リュウグウのコンドリュール様物質やCAIは原始太陽系星雲の内側の領域で作られ、その中でも粒の小さなものだけが、リュウグウ母天体の誕生場所と考えられる外側の領域まで運ばれたのではないかと推定している。今後の研究により、どのような仕組みで太陽系の外縁部まで運ばれたのか解明されるだろう
〈参照〉
- 東北大学:小惑星リュウグウの石から 太陽系最初期にできた可能性のある物質を発見 ─ 原始太陽系星雲内側で形成し、 太陽から遠いリュウグウ母天体まで運ばれたか
- Nature Communications:Chondrule-like objects and Ca-Al-rich inclusions in Ryugu may potentially be the oldest Solar System materials 論文
〈関連リンク〉
- 「はやぶさ2」:
- 星ナビ.com 「はやぶさ2」ミッションレポート
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:
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