M87のブラックホールシャドウ、見えてなかった可能性

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2019年に発表された、楕円銀河M87中心部の超大質量ブラックホールによる影の画像は、解析の産物であり実際には見えていない構造だと指摘する研究結果が発表された。

【2022年7月5日 国立天文台

おとめ座の方向約5500万光年の距離にある楕円銀河M87の中心部で、超大質量ブラックホールが作る影(ブラックホールシャドウ)の姿をとらえたことが発表されたのは、2019年4月のことだった。これは望遠鏡がとらえた画像そのものではなく、国際プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope; EHT)」が世界中の電波望遠鏡で集めたデータを処理し、解析して得られたものだ。

M87中心ブラックホールのシャドウ
EHTが取得したM87中心ブラックホールのブラックホールシャドウ。スケールバーは50マイクロ秒角(7200万分の1度)、明るさは輝度温度(単位は109K)(提供:EHT Collaboration et al., ApJ Letters, 875, L1, 2019

このことは、解析方法を変えれば得られる画像も変わることを意味している。EHTの観測データを再解析していた国立天文台の三好真さんたちの研究チームが発表した画像には、ブラックホールシャドウのリングはない。そのようなリングは実在する構造ではなく、解析によって生じたものだというのが三好さんたちの指摘だ。

M87の中心部からジェットが吹き出していることはよく知られている。しかし、2019年のEHTの発表ではジェットへの言及がなく、またリングの画像から見積もられる中心部の温度もこれまでの推定よりも低いなど、従来の研究とつじつまが合わない点に研究チームは疑問を抱いた。この違いは、EHTがデータを解析する際に視野を128マイクロ秒角(約2800万分の1度)と極めて狭く設定したことが原因だと三好さんたちは考えており、視野を25ミリ秒角(14万4000分の1、EHTの約200倍)と桁違いに広くとると従来の観測や理論と一致するジェットの姿が現れることを示した。

再解析の結果
三好さんたちによる再解析の結果。左上の拡大図には、コアやノットといった構造が見られる。スケールバーの単位はミリ秒角(提供:Miyoshi M. et al.、以下同)

設定視野が小さいEHTの解析方法では、取得されたデータの「くせ」を反映し、大きさ40マイクロ秒角の構造を何もないところに創ってしまうことがあるという。EHTが発表したリングの大きさもそれくらいであり、三好さんたちもないはずのリングが生成されてしまうことをデモンストレーションしている。

40マイクロ秒角サイズのリング
(左)取得データを単純に像変換して、取得データの「くせ」と実像が合わさったもの。(右)「くせ」と実像が合わさったものを初期像モデルとして利用してできた、40マイクロ秒角サイズのリング構造

EHTでは世界中の電波望遠鏡が協力しているとはいえ、その数はM87の観測が行われた2017年4月の時点で6か所8局に過ぎなかった。観測局の配置が解析後の画像にも影響を与えてしまっているので、さらに電波望遠鏡を増やさなければ細かな構造は見えないのではないかと三好さんたちは指摘している。

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