天の川銀河の中心ブラックホールを撮影成功

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イベント・ホライズン・テレスコープが、私たちの天の川銀河にある超大質量ブラックホールのシャドウを撮影することに成功した。

【2022年5月13日 国立天文台イベント・ホライズン・テレスコープ

今回撮影されたブラックホール「いて座A*(いてざエースター)」は、私たちが住む天の川銀河の中心部に存在する超大質量ブラックホールで、いて座の方向約2万7000光年の距離にある。ブラックホールの質量は約400万太陽質量で、超大質量ブラックホールの中では軽い方だ。

このブラックホールの姿をとらえたのは、世界各地にある電波望遠鏡を連携させて超高分解能の電波画像を撮影しようという国際プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」だ。EHTでは2019年に、おとめ座の方向約5300万光年の距離にある「M87」銀河の超大質量ブラックホールを取り巻くリング状の構造を史上初めて撮影したと発表した(参照:「史上初、ブラックホールの撮影に成功!」)。今回の成果はこれに続く快挙となる。

いて座A*
EHTで撮影されたいて座A*のブラックホールシャドウ。リング状の構造の直径は約6000万km(提供:EHT Collaboration)

EHTによるいて座A*の撮影は、M87の観測と同時期の2017年4月5~11日に行われた。使われた望遠鏡もM87のときと同じで、チリのアルマ望遠鏡とスペイン・米国本土・メキシコ・ハワイ・南極の世界6か所に設置された計8局の電波望遠鏡が観測に参加した。

EHT
2017年の観測に参加したEHTの望遠鏡。画像クリックで表示拡大(提供:NRAO/AUI/NSF)

今回得られたいて座A*の画像には、M87の場合と同じく、「ブラックホールシャドウ」と呼ばれる、中心部が暗いリング状の構造がとらえられている。このリングは、ブラックホールの周囲に存在するガスなどから出た光がブラックホールの重力に進路を曲げられてブラックホールの周りを周回している「光子リング」の姿だと考えられる。撮影された光子リングの直径は約6000万km(0.4天文単位=水星軌道の半分ほど)で、これは一般相対性理論が予言するリングの直径とよく一致しているという。

リングの直径と中心ブラックホールの「事象の地平面」の直径の比率は、ブラックホールの自転速度によって変わるが、自転がない場合には光子リングの直径の約1/5、理論的に可能な最大速度で自転している場合にはリング直径の約2/5が地平面の直径となる。

いて座A*のブラックホールは質量がM87の中心ブラックホール(約65億太陽質量)の約1/1600と小さいが、いて座A*までの距離はM87の約1/2100と近いため、地球から見たリングの視直径は約51マイクロ秒角となり、M87のリング(約42マイクロ秒角)よりやや大きい。

いて座A*とM87
EHTで撮影されたいて座A*(左)とM87の中心ブラックホール(右)のシャドウ画像の比較(提供:EHT Collaboration)

今回、M87のブラックホールシャドウと同じ2017年の観測データを使ったにもかかわらず、いて座A*の画像の発表がM87より3年も遅くなった理由は、いて座A*が短時間で見た目が激しく変化する性質を持ち、画像化が非常に難しかったためだ。

M87の光子リングは直径が720天文単位(海王星軌道の約12倍)で、横断するのに光速でも4日ほどかかる大きさなので、約10時間というEHTの観測時間中に見た目が変化することはほとんどない。一方、いて座A*の光子リングは光速での横断時間が3分ほどと小さいため、ブラックホールを取り巻くガスの運動などによって見た目が数分単位で変化してしまい、止まった状態を写し取ることが困難だ。

そのために研究チームでは、通常の電波干渉計のデータを画像化する方法に加えて、像の時間変動も考慮して画像化できるソフトウェアを新たに日本・米国・カナダのチームが開発し、計4種類の手法で画像化に取り組んだ。

また、EHTは世界8局の電波望遠鏡の信号を合成することで、地球サイズの口径を持つ望遠鏡と同等の分解能を実現するが、実際には地球サイズの口径の中に点在する8局の望遠鏡でしか天体の電波を受信しないので、得られた信号から画像を求める際に「解」が1つに決まらないという問題がある。そこで研究チームでは、事前に様々な形をした天体の信号をEHTで受信するシミュレーションを約20万通りも行い、元の天体の構造を正しく画像化できる条件を1万通りまでしぼり込んだ。

画像化の例
(上)最終的に得られたいて座A*の画像。(下)EHTの画像化ソフトウェアで得られた、様々ないて座A*の画像の解の代表画像。左の3種類はリング状の構造を持ち、明るい部分の方位角方向の分布が異なっている解。右端はリング構造を持たない解。画像化のパラメーターを様々に変えて得られた画像の解をこの4種類にグループ化し、出現頻度を表したのが各パネル左下のヒストグラム。リングを持たない解の出現頻度は小さい(提供:EHT Collaboration)

これらの技術を組み合わせることで、時間的に平均化されたいて座A*の特徴を一番もっともらしく再現していると考えられる画像が得られ、いて座A*がリング状で中心部が暗いという基本的な構造をしていることが確かめられた。

今回の成果について、観測データの画像化を担当した独・ゲーテ大学フランクフルトの森山小太郎さんは、「当初、いて座A*の画像化はなかなか観測データに合わず、画像もうまく出ず、『やって意味があるのか』と思うほどの難しさだった。技術の進展とデータの綿密な解析によって徐々にリングの構造が見えてきたが、このリングが本当に存在するのかどうかはM87以上の厳しい条件を課して判断した。条件をクリアして、リングがメインの構造として見えてきたときには感無量だった」と語った。

EHT日本チームを代表する国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長は、「いて座A*は地球から最も近い巨大ブラックホールで、一般相対性理論の検証などで重要な実験場になることは間違いない。また、天の川銀河が誕生・進化した過程で何らかの役割を果たしたはずで、私たち人類の誕生にもどこかで間接的に関わっている可能性もある。今後の研究でそうしたことが明らかになるかもしれない」と語っている。

現在、EHTにはさらにグリーンランド・フランス・米国アリゾナ州の3か所の望遠鏡が参加しており、さらに短い波長帯でも観測が始まっている。EHT国際チームでは、こうした改良によって、今後はさらに分解能の高い観測や巨大ブラックホール周辺の動画を得るなどの観測を目指したいとしている。

登壇者
記者会見の登壇者。左から、本間希樹さん、小山翔子さん、森山小太郎さん、小藤由太郎さん(撮影:星ナビ編集部)

【記者会見】イベント・ホライズン・テレスコープによる研究成果発表(提供:国立天文台)

※6月3日(金)発売の「星ナビ」2022年7月号でも記事を掲載します。
星ナビ2022年7月号

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