大きく脈動する星ほど多くのダストを生む
【2023年4月13日 東京大学】
宇宙空間には酸素や炭素といった重元素を含むダスト(固体の微粒子)が広く存在し、これが地球や私たちの材料となった。こうした重元素は恒星の内部で合成されたものだが、それがどのようにしてダストとなり宇宙に広まったのかは、十分には理解されていない。
ダストの供給源として重要視されているのが、太陽のような恒星が一生の最期にさしかかった姿である漸近巨星分枝星(AGB星)だ。AGB星は数百日から数年周期で収縮と膨張を繰り返し、それに伴い明るさも変わる。この変光現象がダストの形成過程と深く関係していると考えられているが、従来の研究では観測期間が足りないため、脈動とダストのつながりはわかっていなかった。
ダストは星に温められると、中間赤外線で明るく輝く。そこで、東京大学大学院理学系研究科の橘健吾さんたちの研究チームは、「あかり」とNASAの「WISE」という2基の赤外線天文衛星による観測データを組み合わせて、観測期間が1300日に及ぶデータセットを作成した。これは通常のAGB星の変光周期よりも十分に長い。橘さんたちは可視光線から電波を含む多波長の変光データも用いて、197個のAGB星について中間赤外線での変光の振幅を求めた。これだけ多くの天体で中間赤外線の変光が調べられたのは初めてのことである。
それぞれのAGB星について変光振幅と星の色を調べた結果、振幅が大きいAGB星ほど赤い(波長が長い)という傾向が見られた。AGB星の周りにダストが多く存在すると、そのダストが星の光を吸収し、より波長の長い赤外線で放射すると考えられる。つまり、赤いAGB星ほどダストが多いということになる。言い換えれば、明るさの変化が大きなAGB星ほど、ダストを多く放出しているわけだ。
ダストは、星の周囲に存在するガスの密度が一定以上、温度が一定以下になるような領域で形成されると考えられる。そのため、中心星の明るさの変化が大きいほど、温度の変化も大きく、ダストを形成できる領域が広くなるはずだ。今回見つかった関係は、このようなメカニズムを反映していると考えられる。
〈参照〉
- 東京大学大学院理学系研究科・理学部:星の鼓動とダストの不思議な相関関係
- PASJ:Investigation of mid-infrared long-term variability of dusty AGB stars using multiepoch scan data of AKARI and WISE 論文
〈関連リンク〉
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