132億年前の銀河に存在した大量の塵
138億年前、誕生した直後の宇宙に存在していた元素は、水素とヘリウム、およびわずかなリチウムだけだった。その後、ガスが集まって星が誕生し、星の内部の核融合反応によって炭素や酸素などの重い元素が次第に作られてきた。
こうした重い元素は、星が一生を終える際に周囲の宇宙空間へとまき散らされる。このような過程が繰り返されることによって、宇宙には徐々に重い元素が蓄積されていく。したがって、遠方宇宙(初期宇宙)における重い元素の存在量を調べることで、宇宙初期の星の形成史を解き明かす手がかりが得られる。
名古屋大学の田村陽一さんたちの研究チームはアルマ望遠鏡を使って、エリダヌス座の方向約132億光年の距離にある銀河「MACS0416_Y1」を観測した。その結果、太陽の400万倍という大量の塵や酸素がこの銀河に存在していることが確かめられた。塵と酸素が検出された銀河としては、観測史上2番目に遠い銀河の記録である。
MACS0416_Y1に大量の塵と酸素が検出されたことは、宇宙誕生から6億年という比較的短い時間に、この銀河ですでに多くの星の生死が何度も繰り返されたことを示している。宇宙誕生から10億年未満の時代の銀河に理論予想を大きく超える量の塵が存在するという問題はこれまでも指摘されてきたが、今回の発見は、より早期の宇宙にも大量の塵が存在することを示すものであり、問題はより大きくなった。
塵の量などを元にしたモデルによると、生まれて3億年程度の星と、今(=132億年前)まさに生まれたばかりの星という2つの世代の星々が銀河内に共存していれば、観測結果とうまく整合するという。つまりMACS0416_Y1では、ビッグバン後およそ3億年が経過したころに最初の活発な星形成が進み、その活動がいったん落ち着いたあと、さらに3億年後(ビッグバンから約6億年後)に再び活発な星形成活動が始まったと考えられるということだ。今回研究チームが観測したのは、2度目の星形成活動の始まりのあたりと考えられている。
今後も観測研究を推し進めることで、宇宙で最初の星である第一世代星(ファーストスター)が生まれた時代に迫ることもできると期待される。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:132億年前の宇宙に存在した大量の塵の観測に成功! ~宇宙初期の星形成史をさかのぼる~
- The Astrophysical Journal:[Detection of the Far-infrared [O iii] and Dust Emission in a Galaxy at Redshift 8.312: Early Metal Enrichment in the Heart of the Reionization Era](https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ab0374) 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/10/16 アルマ望遠鏡、最も遠い回転円盤銀河を発⾒
- 2024/01/09 最遠方銀河で理論予測を超える活発な星の誕生
- 2023/12/18 初期宇宙の銀河に予想以上に多く窒素が存在
- 2023/12/12 遠方宇宙に多数の活動的な大質量ブラックホールが存在
- 2023/11/16 酸素は131~133億年前の宇宙で急激に増えた
- 2023/10/05 120億年前の初期宇宙で衝突合体中の赤ちゃん銀河
- 2023/07/20 132億年前の銀河の暗黒星雲と巨大空洞
- 2023/07/04 129億年前の初期宇宙でクエーサーの親銀河を検出
- 2023/06/06 星屑の再利用で成長し続ける太古の巨大銀河
- 2023/04/13 大きく脈動する星ほど多くのダストを生む
- 2023/01/20 宇宙初期の銀河の大きさと明るさの関係
- 2023/01/13 「迷子星」の光から銀河団の歴史をさぐる
- 2022/07/07 初期宇宙で回転を始めた銀河
- 2022/04/11 135億光年の彼方、最遠方銀河の候補
- 2022/03/04 129億年前の銀河から窒素と酸素を検出
- 2021/11/12 130億年前の銀河に水分子を発見
- 2021/10/06 初期宇宙でもう星の材料を使い切った銀河たち
- 2021/09/28 史上最古の「塵に埋もれた銀河」を131億年前の宇宙で発見
- 2021/06/21 ベテルギウスを暗くした塵の姿
- 2021/04/26 パーサビアランス、火星大気からの酸素生成に成功