矮小銀河のストロンチウムは4種の天体現象で作られる

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矮小銀河で観測されるストロンチウムのような重元素の組成を説明するには、少なくとも4種類の天体や現象が必要であることが、スーパーコンピューターを用いたシミュレーションで示された。

【2020年2月20日 国立天文台 天文シミュレーションプロジェクト

宇宙に存在する多くの軽い元素は、恒星内部で起こる核融合反応によって形成される。核融合反応では鉄やニッケルのような重い元素も生成され、これらの原子核がさらに中性子を獲得すると、より重い元素が形成される。

この中性子を獲得する過程には2種類あり、超新星爆発や中性子星同士の合体のような極限の天体現象では速い中性子捕獲過程(rプロセス)が、より軽い星の進化の最終段階である漸近巨星分枝星などでは遅い中性子捕獲過程(sプロセス)が起こる。それぞれの過程では、異なる割合の重元素が形成される。

たとえば、中性子捕獲過程で形成される元素のなかで最も軽いものの一つであるストロンチウムと、同じく中性子捕獲過程で作られる元素のなかで重いものの代表であるバリウムとを比較すると、天の川銀河の近傍に存在する矮小銀河には、バリウムに対するストロンチウムの比率が極めて高い星がいくつか観測されている。これはストロンチウムとバリウムが異なる環境で誕生したことを示しており、その原因を探ることは、中性子捕獲過程の種類や頻度、重元素の起源の理解につながる。

ちょうこくしつ座矮小銀河
ちょうこくしつ座矮小銀河。遅い中性子捕獲過程によってストロンチウムが過剰になった恒星が含まれている(提供:ESO/Digitized Sky Survey 2)

理化学研究所の平居悠さんたちの研究チームはストロンチウムの起源を確かめるため、rプロセスとsプロセスを起こす天体現象を考慮した矮小銀河の化学進化シミュレーションを行い、どのような天体現象でストロンチウムが再現されるかを調べた。シミュレーションには、国立天文台が運用する天文学専用スーパーコンピューター「アテルイII」が使用された。

その結果、中性子星合体(rプロセス)と漸近巨星分枝星(sプロセス)だけではストロンチウムの量を説明できないことが示された。足りないストロンチウムのうちいくらかは、自転する大質量星に由来すると研究チームは考えている。このような星では、恒星内部での物質の撹拌によって中性子が作られ、sプロセス元素が生成される。

「さらに重要なこととして、電子捕獲型超新星から放出された物質によってストロンチウムとバリウムの比が大きい星が作られるということがシミュレーションからわかりました。このような超新星は、大質量星の中でも太陽の8~10倍程度という軽い部類の星が起こすとされている現象です。つまり、このような星がストロンチウムの起源になっていると考えられます」(平居さん)。

元素比の比較
4つの天体・天体現象(中性子星合体、漸近巨星分枝星、自転する大質量星、電子捕獲型超新星)の影響を考慮したシミュレーションが示す元素比と、近傍矮小銀河や天の川銀河で観測された恒星の元素比の比較。黒い実線はシミュレーションが示す中央値を表す。画像クリックで表示拡大(提供:Hirai et al., 2019, ApJ)

今回の研究結果により、近傍の矮小銀河で観測されるストロンチウムの量を説明するためには、中性子星合体と漸近巨星分枝星、自転する大質量星、電子捕獲型超新星という4種類の天体や天体現象の中で起こる中性子捕獲反応が必要であるということが示された。今後は天の川銀河内やその周辺の星で観測される元素組成とシミュレーション結果を詳細に調べ、さらに重元素の起源を調べていくという。