消滅しつつある「こぐま銀河」
【2017年7月10日 W.M. Keck Observatory】
おおぐま座に位置する小さな銀河であることから「こぐま銀河(The Little Cub galaxy)」とも呼ばれる矮小銀河「SDSS J1044+6306」と、その隣に位置する大きな銀河「NGC 3359」は、地球から約5000万光年の距離に位置するペアだ。両銀河の間は約20万~30万光年離れている。NGC 3359ははっきりとした腕を持つ大きな渦巻銀河で、1000億個以上の星を含んでいる。一方のこぐま銀河に存在する星はその1万分の1ほどしかない。
こぐま銀河のガスはNGC 3359によってはぎ取られつつあり、やがてこぐま銀河は消滅するとみられている。「大きな銀河の近くにある小さな銀河に、まだガスが存在していて星が形成されているのは、稀なことです。こぐま銀河の星形成に必要なガスが大きな銀河によってはぎ取られているということは、やがてこぐま銀河の星形成が止まり、銀河が消滅することを意味しています。そのプロセスを観測する絶好の機会です」(米・カリフォルニア大学サンタクルーズ校 Tiffany Hsyuさん)。
また、こぐま銀河内に存在する数少ない非常に明るい星によって照らし出されている水素原子やヘリウム原子を調べることで、初期宇宙の構成について情報が得られることも期待されている。「こぐま銀河は、近傍宇宙で知られている銀河のなかで、最も原始的な天体の一つであることがわかりました。一生のうちのほとんどを休眠状態で過ごすこのような銀河には、ビッグバンから数分後にできた化学元素が含まれていると考えられています。こぐま銀河の水素原子とヘリウム原子の相対数を測定することで、誕生直後の宇宙がどんな物質で構成されていたのかについて情報を得ることができるかもしれません」(英・ダラム大学 Ryan Cookeさん)。
〈参照〉
- W.M. Keck Observatory:“Little Cub” Gives Astronomers Rare Chance to See Galaxy's Demise
- The Astrophysical Journal Letters:The Little Cub: Discovery of an Extremely Metal-Poor Star-Forming Galaxy in the Local Universe 論文
〈関連リンク〉
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