天の川銀河を巡る矮小銀河のダンス
【2018年11月19日 カナリア天体物理研究所】
スペイン・カナリア天体物理研究所(IAC)のTobias K. Fritzさんたちの研究チームは、今年4月に公開されたヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星「ガイア」の第2期データ(DR2)を使って、天の川銀河の周囲に存在する矮小銀河のうち39個の運動の様子を調べた。
矮小銀河とは、その名の通り小さい銀河のことで、含まれている星の数が少ないため、明るさは天の川銀河の数万分の1から数百万分の1ほどしかない。今回研究対象となった矮小銀河のうち29個の動きが調べられるようになったのは、DR2がリリースされたおかげだ。
研究の結果、矮小銀河の多くが「Vast POlar Structure(VPOS)」と呼ばれる巨大な平面構造内を移動していることが明らかになった。VPOSの起源はよくわかっていないが、現在の宇宙論的銀河形成モデルに疑問を投げかける特徴を持っているとみられている。「質量が大きめの矮小銀河の多くがVPOSに存在していることは、これまでにわかっていました。今回の研究で、質量の小さな複数の矮小銀河もVPOSに属しているかもしれないことがわかりました」(Fritzさん)。
Fritsさんたちは、複数の矮小銀河が天の川銀河の内側へ近づく軌道を持つことも発見した。「天の川銀河の潮汐力によって、いくつかの矮小銀河は引き伸ばされているでしょう。『ヘルクレス座矮小銀河』『コップ座II矮小銀河』などの特徴は、これで説明できる可能性があります」(Fritsさん)。
一方で新たな謎も生じている。「『りゅうこつ座I矮小銀河』などの特徴も、天の川銀河の潮汐力の影響かもしれないと考えられてきました。しかし、今回の研究で明らかになった矮小銀河の軌道は、その仮説の確認にはつながらないようです。原因は、他の矮小銀河との接近遭遇にあると考えるべきかもしれません」(IAC Giuseppina Battagliaさん)。
また、矮小銀河の動きを調べたことにより、これらの銀河の大半が、軌道上で最も天の川銀河の中心に近づく点のあたりに存在していることも明らかになった。しかし、矮小銀河の軌道上での運動を考えると、天の川銀河の中心近くにある期間は短く、最も遠く離れたところ付近にある期間のほうがずっと長いはずだ。「つまり、天の川銀河の中心から遠く離れた領域に、未発見の矮小銀河がまだ数多く隠れているかもしれないということです」(Fritzさん)。
矮小銀河は、それ自体が興味深いだけでなく、ダークマターを調べるうえで役立つ手段の一つでもある。矮小銀河の動きに影響を及ぼす重力の大きさから天の川銀河内の物質の総量を計算し、そこから星やガスといった電磁波で検出可能な天体の質量を差し引くことで、ダークマターの量を見積もることができるのだ。この方法により、天の川銀河に含まれるダークマターの総質量は太陽の1兆6000億個分ほどと推算された。
〈参照〉
- IAC:The dance of the small galaxies that surround the Milky Way
- Astronomy & Astrophysics:Gaia DR2 proper motions of dwarf galaxies within 420 kpc 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/09/19 鮮やかにとらえられた天の川銀河の最果ての星形成
- 2024/07/04 天の川銀河の衛星銀河は理論予測の倍以上存在か
- 2024/06/10 ダークマターの塊が天の川銀河を貫通した痕が見つかった
- 2024/03/07 天の川銀河に降る水素ガス雲は外からやって来た
- 2024/01/19 天の川銀河の折り重なる磁場を初めて測定
- 2023/12/08 天の川銀河中心の100億歳の星は別の銀河からやってきたか
- 2023/11/21 太陽系が生まれた場所は今より1万光年も銀河の内側
- 2023/09/26 天の川銀河中心の分子雲の距離と速度を精密計測
- 2023/09/12 天の川銀河の中心から遠い星ほど重元素は少ない
- 2023/03/30 宇宙で最初の星はひとつではなかった
- 2023/02/13 ガンマ線観測でダークマター粒子の性質をしぼり込む新成果
- 2023/02/03 AIで距離判定、天の川銀河のガス雲分布を描く
- 2022/09/30 天の川銀河中心で光速の30%で回るガス塊
- 2022/09/16 星形成の運命を決めた天の川銀河の棒構造
- 2022/09/05 天の川銀河の取り巻きは、少なくないが偏っている
- 2022/06/21 軟ガンマ線の画像化技術を確立、銀河中心やかに星雲を気球観測
- 2022/06/17 天の川銀河の大規模調査、ガイア第3期データの完全版公開
- 2022/06/14 超新星爆発せずに生まれたミリ秒パルサー、過剰ガンマ線の起源か
- 2022/04/04 天の川銀河の腕と腕の間にも星の材料
- 2022/03/30 天の川銀河の厚い円盤は130億年前から形成が始まった