銀河衝突の痕跡か、天の川銀河の衛星銀河の外に広がる星々

このエントリーをはてなブックマークに追加
天の川銀河の衛星銀河で外縁部に広がる星々が見つかった。天の川銀河の潮汐力でできた構造ではない可能性があり、矮小銀河同士が衝突を経験している証拠かもしれない。

【2026年1月20日 すばる望遠鏡

銀河の進化を考える上で、銀河同士の衝突・合体は重要なメカニズムの一つだ。私たちの天の川銀河をはじめとする渦巻銀河は、円盤部を球状に取り囲む「ハロー」という大きな構造を持っている。ハローは銀河が過去に小さな銀河と衝突・合体してきた過程で形成されたもので、その証拠として、小さな銀河の残骸がハローの中にサブ構造として見つかっている。

天の川銀河の想像図
天の川銀河の想像図。(左)真上から見た図、(右上)真横から見た図。右下は銀河円盤を取り巻くダークマターハロー恒星からなるハローを表す(スケールの差に留意)(提供:NASA Goddard Space Flight Center

一方、矮小銀河のような小規模な銀河は、外からのガスの流入や、銀河内部での星の誕生といった比較的単純な過程でできたと考えられ、矮小銀河同士の衝突や合体はほとんど起こらないとみなされてきた。しかし近年、ヨーロッパ宇宙機関の観測衛星「ガイア」によって、一部の矮小銀河で本来の銀河の広がり(潮汐半径)を超えた外側にも星の分布が見つかり、注目を集めている。

宇宙初期に生まれた「銀河の化石」といえる矮小銀河が、大きな銀河と同様に合体を経験して成長してきたかどうかを知るためには、天の川銀河の周囲に存在する矮小銀河でハローを検出し、その特性を明らかにすることが重要だ。

しかし、ガイアの観測では、矮小銀河の星々のうち比較的明るい赤色巨星しかとらえることができず、外側に広がる暗い星々の分布を詳しく調べるのは難しかった。そのため、矮小銀河の外側に広がる星々が、天の川銀河の潮汐力で後から引き伸ばされたものなのか、それとも過去の合体でできた矮小銀河固有のものなのかは判断できていなかった。

総合研究大学院大学の佐藤恭輔さんたちの研究チームは、満月9個分という世界最大級の広い視野を持つすばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC)」を用いて、天の川銀河の衛星銀河である「こぐま座矮小銀河」を撮像し、その星々を周辺部まで詳細に調べた。

こぐま座矮小銀河
すばる望遠鏡のHSCが撮影した、こぐま座矮小銀河(3視野分を合成)。楕円は矮小銀河の中心部を示す。非常に淡い天体のため目視での判別は難しいが、画像の端までこぐま座矮小銀河の星々が広がっている(提供:国立天文台、以下同)

観測の結果、ガイアでは見えなかった暗い主系列星が多数検出され、矮小銀河の外縁部に広がる星々がこれまでにない精度で描き出された。そのデータを詳しく解析したところ、こぐま座矮小銀河の外側の星々は、これまで知られていた長軸方向の広がりだけでなく、短軸方向にも広がりを持つことが明らかになった。

こぐま座矮小銀河が長軸方向に伸びた構造を持っているのは、天の川銀河から潮汐力を受けて引き伸ばされたためだと考えられている。だが、今回見つかった短軸方向の広がりは、長軸方向の広がりとは異なる特徴を持っていた。このことから、短軸方向の広がりは潮汐力とは別の力学的な過程でできたことが示唆される。

こぐま座矮小銀河の星の分布と数密度
(中央)今回得られた、こぐま座矮小銀河の主系列星の空間分布。左と右の図は、銀河の長軸方向・短軸方向に沿った星の数密度を表す。左右の図の黒い線は、広がった構造が存在しないと仮定した場合に予測される数密度分布を表す。長軸・短軸のいずれも、実際の星の数密度(青点、緑点)は銀河の外縁部で予測より高く、外側に広がった構造があることを示している。画像クリックで表示拡大

佐藤さんたちはこの結果から、こぐま座矮小銀河の短軸方向の構造は、矮小銀河同士の合体で形成されたのかもしれないと考えている。これは、質量が天の川銀河の10万分の1ほどしかない矮小銀河でも、衝突や合体が銀河の形成の歴史に関わっていたことを示す重要な結果だ。「天の川銀河の矮小銀河で銀河衝突の痕跡が見つかる例はこれまでほとんどなく、矮小銀河の成り立ちを考える上で新たな視点を与える発見です」(佐藤さん)。

今回見つかった構造が本当に合体の痕跡なのかを明らかにするには、星々の運動や化学組成をより詳しく調べる必要がある。すばる望遠鏡では、間もなく超広視野多天体分光器「ʻŌnohiʻula(オーノヒウラ(※)) PFS」の運用が開始される予定で、この新装置によって、こぐま座矮小銀河の形成の歴史が明らかになると期待される。

※ ʻŌnohiʻulaという名称は、2025年11月に行われた命名式でハワイ大学のLarry Kimura教授から贈られた。ハワイ語で「目で認識するもの」を意味する“nohi”と、ハワイ文化で天と結びついた神聖な色である「赤」を意味する“ʻula”という言葉から成る。今後、この観測装置が大きな赤方偏移を示す膨大な数の遠方銀河を観測し、宇宙初期と銀河進化という「私たちの起源を解き明かす」という意味が込められている。

関連記事