天の川銀河辺境の星のゆりかごで宇宙の物質進化を探る

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天の川銀河の外縁部に、原始星を包む分子雲が発見された。同天体では宇宙線が弱く分子の生成に関わる反応がうまく進行しなかった可能性があり、物質進化が星を取り巻く環境に大きく影響を受ける可能性が示された。

【2026年3月24日 新潟大学

新潟大学の池田達紀さんたちの研究チームが、太陽系の約2倍ほど天の川銀河の中心から離れた”辺境”にある星形成領域をアルマ望遠鏡で観測した。その結果、観測した5つの領域のひとつ「Sh 2-283」に新たなホットコア(原始星を包む暖かいガス分子の雲。下部に解説)を発見し、またこの領域からメタノールやジメチルエーテルなどの複雑な有機分子をはじめとする多種多様な分子輝線を検出した。このようなホットコアの検出は、天の川銀河の外縁領域としてはこれで2例目となる(参照:「天の川銀河の最果てに、有機物とともに生まれた星を発見」)。

ホットコアから検出されたメタノールガスの分子輝線分布および電波スペクトル
(左上)Sh 2-283領域の天の川銀河における位置、(中央上)Sh 2-283領域の赤外線3色合成画像、(右上)ホットコア 「Sh 2-283-1a SMM1」におけるメタノールガスの分子輝線分布および電波スペクトル 。メタノールやジメチルエーテルなどの有機分子から、二酸化硫黄や一酸化ケイ素などの無機分子まで、多くの分子種が検出された(提供:池田達紀(新潟大学)、R. Hurt/NASA/JPL-Caltech/ESO)

このホットコアの成分を、太陽系周辺や他の銀河(大小マゼラン雲)のホットコアと比較したところ、二酸化硫黄やジメチルエーテルなどの分子が少ない傾向にあることがわかった。これらの分子の形成にはホットコア外部からの宇宙線が大きく関わると考えられていることから、天の川銀河の外縁部では宇宙線が弱く、分子を作る反応があまり進まなかったことが示唆される。

Sh 2-283領域の位置と赤外線画像
Sh 2-283領域の天の川銀河における位置(左上)、Sh 2-283領域の赤外線3色合成画像(赤が2.16μm、緑が1.65μm、青が1.22μm、UKIDSS サーベイより)。画像クリックで表示拡大(提供:新潟大学リリース)

天の川銀河の外縁部は、太陽系周辺に比べて炭素や酸素といった様々な分子の材料となる重元素の存在比が少ない。また星の材料となるガスが少なく新たな星も生まれにくいので、超新星爆発のような激しい影響も少ない静穏な環境といえる。
今回の観測結果は、こうした環境の違いがホットコアにおける物質進化に大きく影響する可能性を示している。

今後、アルマ望遠鏡などを用いて同様の領域における星形成活動をさらに調べることで、わたしたちの太陽系の周辺とは大きく異なる環境にある星・惑星形成領域の物質進化の詳細が明らかになると期待される。

ホットコア

星は星間分子雲の濃い部分(分子雲コア)が重力で収縮して誕生し、生まれた赤ちゃん星が周囲のガスや塵を暖め始める。このような原始星を包む暖かいガス分子の雲の温度は100ケルビン(摂氏約マイナス170度)程と、宇宙の平均温度である2.7ケルビン(摂氏約マイナス270度)に比べてはるかに高く、「ホットコア」と呼ばれている。

星形成の標準シナリオ
(上段)星形成の標準シナリオの模式図、(下段左)原始星「HH 30」の円盤と円盤から垂直に噴出するジェット(双極流)、(下段右)原始星[ぎょしゃ座AB星」周囲の塵とガスからなる渦を巻く円盤状の構造(提供:(上段)Shu, Adams & Lizano 1987、(下段左)ESA/Webb, NASA & CSA, ESA/Hubble, ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)、(下段右)国立天文台、すばる望遠鏡

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