水星に予想以上の氷が存在
【2017年9月26日 Brown University】
1990年代に地上からのレーダー観測で、水星の南北の極付近にある複数のクレーター内部に非常に反射率の高い明るい領域が検出された。水星の自転軸はほとんど傾いていないので極付近のクレーター内部は太陽光が当たらない永久影となること、水星には大気がほとんどないため熱が閉じ込められないことから考えると、この明るい領域には氷が存在すると考えられる。水星の昼側は摂氏400度以上の高温の世界だが、太陽光が当たらないところはマイナス150度以下と非常に冷たいのだ。
2011年にはNASAの探査機「メッセンジャー」が水星周回軌道上からの観測で、水星の北極に水の氷の存在を示す中性子が検出され、氷発見への期待が高まった。
米・ブラウン大学のAriel Deutschさんたちの研究チームは、メッセンジャーに搭載されたレーザー高度計の測定値データを詳細に検証した。この機器は主に標高を地図化するために使われるものだが、表面の反射率を調べるためにも利用される。反射率の測定が観測対象の真上から行われたのか斜めからなのかに応じてデータを較正したところ、3つの大きなクレーター内部に、氷と思われる反射率の高い堆積物が検出された。3つの氷床の総面積は約3400平方kmにも及んでいる。
Deutschさんたちは3つのクレーター周囲の地形の反射率データも調べており、クレーター内部の氷床ほど明るくはないが、水星上の平均的な表面と比べるとかなり明るいことを示した。「この高い反射率は、クレーター周囲の地形の至る所に氷が小さな斑点状に広がっているためではないかと考えています」(Deutschさん)。
さらにデータを調べたところ、直径約5km以下の氷が4つ見つかった。小規模の氷の堆積物が存在することが明らかになり、水星に存在する氷の量が従来の推定よりも劇的に増える可能性がある。「大きさが1kmから数cm程度のものは、おそらくもっと数多く存在していると考えています」(Deutschさん)。
どうやって北極の氷が水星にたどり着いたのかは未解決の問題だ。水を豊富に含んだ彗星や小惑星の衝突が最も有力な説だが、太陽風が水星上の酸素原子と作用して水を形成したという考え方もある。「思った以上に多くの氷が水星に存在することが示されました。どのようにして水や揮発性物質が地球や水星、月など太陽系内部の至る所に運ばれてきたのかという疑問の答えを探るのが重要な課題です」(ブラウン大学 Jim Headさん)。
〈参照〉
- Brown University:New research suggests Mercury’s poles are icier than scientists thought
- Geophysical Research Letters:New evidence for surface water ice in small-scale cold traps and in three large craters at the north polar region of Mercury from the Mercury Laser Altimeter 論文
〈関連リンク〉
- 水星探査機メッセンジャー:
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