衛星「あらせ」、明滅するオーロラの起源を解明
【2018年2月16日 JAXA】
高緯度地方の夜空を覆うオーロラ嵐は、地球の磁気圏に蓄えられた太陽風のエネルギーが急激に解放されることで生じる。典型的なオーロラ嵐では、まず夕方から真夜中にかけてカーテン状の明るいオーロラが現れて爆発的に舞い、その後に朝側で淡く明滅する斑点状のオーロラが現れる。
斑点一つのサイズは数十から数百kmで、数秒から数十秒の周期で明滅(脈動)を繰り返す。この明滅する「脈動オーロラ」は、磁気圏の高エネルギー電子が高度100km付近の上層大気に向けて降ったり止んだりして生じることが、過去の地球近傍での観測からわかっていた。しかし、こうした電子の間欠的な降り込みの物理プロセスを観測的にとらえることは非常に困難で、電子の降り込みが磁気圏のどこでどのように起こっているのかは、まだわかっていない。
通常、磁気圏内の電子は磁力線方向に沿った南北運動を繰り返しており、地球の大気に降ってくることはないのでオーロラは見えない。何らかの理由で往復運動が破れ、電子が地球の大気に到達するとオーロラが見えることになり、往復運動を破るメカニズムの違いがオーロラの多様性を生む。とくに脈動オーロラの場合は、「コーラス波動」と呼ばれるプラズマ波動の一種が電子の往復運動を破り、大気への降り込みを駆動すると考えられてきたが、その破れの現場はこれまで直接観測できていなかった。
こうした謎の解明を目指し、東京大学の笠原慧さんたちの研究チームは、ジオスペース探査衛星「あらせ(ERG)」によるプラズマ観測と、NASAの磁気圏観測衛星「テミス」プロジェクトの地上全天カメラによるオーロラ観測とが同時に取得したデータの解析を行った。2016年12月に打ち上げられた「あらせ」はジオスペース(地球近傍)におけるプラズマ物理の解明を目的とした衛星で、2017年3月から定常観測を開始している。
「あらせ」の定常観測開始から5日後、地上全天カメラがとらえた明滅するオーロラの一つに、その視野中に「あらせ」につながる磁力線の根元があるという幸運な現象が発生した。このデータを解析したところ、間欠的に発生するコーラス波動と同期するようにして降り込み電子も大きく変動する(コーラス波動が強まると降り込み電子が現れる)様子が明瞭にとらえられていた。コーラス波動による「電子の往復運動の破れ」の決定的な証拠を、世界で初めて観測した例だ。
さらに、磁気圏内で「あらせ」がとらえた降り込み電子の変動と、全天カメラがとらえたオーロラ明滅との同期についても、よい相関があることが確認された。コーラス波動の発生 → 波動による電子の揺さぶり、「往復運動の破れ」→ 電子の大気への降り込み → オーロラの発光、という一連のプロセスが間欠的に起こることによって明滅するオーロラが発生するというプロセスが、決定的なものであることを示す成果である。
今後も「あらせ」のデータを解析し、いつどこで電子の降り込みが起こるかを詳細に調べることで、オーロラと宇宙プラズマ物理過程の詳細や多様性の理解が進むと期待される。
関連商品
〈参照〉
- JAXA:明滅するオーロラの起源をあらせ衛星が解明 - 宇宙のコーラスにあわせて密かに揺れる電子の挙動がつまびらかに
- natureasia.com:脈動オーロラの発生機構に関する新たな手掛かり
- Nature:Pulsating aurora from electron scattering by chorus waves 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/11/06 今年5月に日本で見られた低緯度オーロラは高高度、色の謎も解明
- 2024/10/10 「みお」水星スイングバイ時のデータが示す磁気圏の様相
- 2024/10/04 今年5月に日本で見られたオーロラを発生させた太陽嵐を電波観測
- 2024/10/04 脈動オーロラの形状と降下電子のエネルギーの関係を解明する観測に成功
- 2024/06/28 2つの特殊なオーロラの発生要因が明らかに
- 2024/05/13 日本など各地で低緯度オーロラを観測
- 2023/11/06 宇宙嵐を発達させるプラズマは太陽風ではなかった
- 2023/07/25 水星探査機「みお」、X線オーロラを起こす電子を観測
- 2023/05/02 日本の歴史資料から読み解く太陽活動の周期性
- 2022/12/06 M87ブラックホールのジェットがゆるやかに加速する仕組み
- 2022/12/02 観測衛星「ジオテイル」、30年のミッションを終了
- 2022/06/08 深層学習でオーロラの出現を自動検知
- 2022/05/18 フラッシュオーロラから宇宙のコーラス電磁波の特性を解明
- 2021/12/24 1957-8年、太陽活動が観測史上最大級の時期のオーロラ国内観測記録
- 2021/12/17 地球周辺空間は電波を通じてダイナミックに変動
- 2021/12/14 宇宙の電磁波が地上に伝わる「通り道」を解明
- 2021/09/13 過去3000年のオーロラ出現地域を計算、文献とも一致
- 2021/08/13 木星の「熱すぎる高層大気」の原因はオーロラだった
- 2021/08/03 ガニメデの大気に水蒸気が存在する証拠を検出
- 2021/07/20 明滅オーロラとともに起こるオゾン破壊