2つの特殊なオーロラの発生要因が明らかに

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2022年12月に発生した北極を覆い尽くす巨大オーロラと、2023年12月に北海道の広範囲で肉眼で見られた異常に明るいオーロラは、それぞれ特殊なものであった。これら特別なオーロラの発生要因が、別々の研究から明らかになった。

【2024年6月28日 電気通信大学国立極地研究所

2022年12日に撮像された、北極域を覆い尽くすほどの巨大オーロラの成因

電気通信大学の細川敬祐さんたちの研究チームは、ノルウェー領スバールバル諸島に設置されている複数の全天型オーロラ撮像装置(ASI; All-sky Imagers)と、極軌道を周回する米国の防衛気象衛星(DMSP)に搭載された紫外線撮像装置(SSUSI; Special Sensor Ultraviolet Scanning Imager)を組み合わせて、2022年12月25日に発生した北極域をほぼ完全に埋め尽くす数千km四方に広がる特殊なオーロラを、世界で初めて宇宙と地上から同時に撮像することに成功した。

極域を覆ったオーロラの広域分布
DMSP搭載のSSUSIによって得られた北極域のオーロラの広域分布。2022年12月25日世界時(UT)4時53分から翌26日11時30分までの24枚の連続画像。画像の中央が磁気的な北極点、上側が太陽方向。(A)25日04時53分UT。極冠は薄暗く、統計上オーロラがよく現れる極域を取り囲むような領域「オーロラオーバル」のリングに囲まれている。(B~F)25日6時06分~13時25分UT。極冠がオーロラ発光でゆっくりと満たされた。(G~S)25日15時06分~12月26日06時22分UT。極冠がほぼ完全に強い拡散オーロラで満たされた。(T~V)26日07時35分~09時47分UT。極冠の拡散発光が徐々に弱まった。(WとX)26日10時59分と11時30分UT。オーロラ楕円に囲まれた元の薄暗い極冠に戻った(提供:電気通信大学リリース(K. Hosokawa et al.)、以下同)

特徴的なのは、このオーロラが発生した際に太陽風が消えていたということだ。通常の太陽風の条件下では、極に非常に近い高緯度領域(極冠域)で明るいオーロラが観測されることはない。そのため、太陽風が消失するという特殊な状況下で、通常とは異なる物理メカニズムによって、この巨大なオーロラが作り出されていたことが示唆される。

太陽の磁場が特別な向きになると、太陽磁場と地磁気が繋がりあって、太陽と地球が磁力線によって結ばれる。このとき、太陽表面の「コロナホール」と呼ばれる低温で低密度の領域から、磁場に沿って太陽起源の電子群である「ストラール」が放出される。電子は磁力線に沿って直接地球大気に導かれ、極地方に雨のように降り注ぐ(ポーラーレイン)。

細川さんたちが人工衛星による太陽風観測データを解析したところ、太陽風が消えた日の観測事例では、太陽の磁場と地磁気が繋がりあう条件が満たされていたことがわかった。このことから、北極地方にポーラーレインが起こったことに加えて、太陽風が消えているおかげで電子が進路を乱されることがなく、通常よりもはるかに多くの電子が北極に到達できたとみられる。これらの要因により、北極域を覆うように極端に明るい巨大オーロラが発生したと考えられる。太陽風が「消えている」ことが、極冠域全域を覆うほど大規模で極端に明るいオーロラを発生させるための必須条件であることを、世界で初めて突き止めた研究成果だ。

極地に降る電子の雨の模式図
太陽表面のコロナホールから放出されたストラール電子が地球に到達し、電子の雨を極地方に降らせる模式図。大量に降下する電子の雨(ポーラーレイン)によって、北極域の広い領域を覆い尽くすように明るいオーロラが発生している

また、ポーラーレインオーロラが波打つような複雑な空間構造を持ち、秒速200m程の速度で太陽から遠ざかる方向にダイナミックに移動していることことも明らかになった。この現象はストラール電子の源である太陽表面の構造を映し出している可能性があり、オーロラの地上観測によって太陽表面のイメージングが可能になることも期待されるという。

2023年12月に北海道で異常に明るいオーロラが目撃された要因

2023年12月1日、北海道の広い地域から肉眼で見えるほどの異常に明るいオーロラが発生した。しかしこのとき、磁気嵐の規模はそれほど大きいものではなかった。国立極地研究所の片岡龍峰さんたちの研究チームは、多地点で市民科学者によって撮影されたオーロラの写真をもとに、磁気嵐の規模以上に明るいオーロラが発生したメカニズムを検証した。

2023年12月1日に北海道で取得されたオーロラ
2023年12月1日に北海道の異なる地点から撮影されたオーロラ。撮影者:(a)KAGAYAさん、(b)佐野康男さん、(c)滝本彰洋さん(提供:国立極地研究所リリース)

その結果、北海道で見られたオーロラの発生位置が400~600kmで、通常の赤いオーロラの発光高度である200km高度に比べて非常に高かったこと、磁気緯度が50~53度であったことが明らかになった。この高高度が、北海道で広く観測された原因の一つである。

また、当日は、太陽風から地球磁気圏へ電磁エネルギー流入が大きくなって起こる爆発的なエネルギー解放現象「サブストーム」が、通常のものに比べて地球に近い位置で起こっていたこともわかった。オーロラは磁気嵐中に発生するサブストームの時に最も明るく輝くことが知られていて、これも広範囲で観測された要因となる。

さらに、太陽風粒子の密度が平均の10倍以上と極めて高くなっていたこともわかり、これが磁気嵐の発達の抑制につながったとみられるという。ただし、高密度になった原因や、それを事前に予測可能かといったことはわかっておらず、宇宙天気予報のための重要な研究課題として今後解明していく必要がある。

「北海道で撮影したオーロラ」(2023年12月1日に北海道で撮影されたオーロラ写真から作成された動画)(提供:KAGAYASTUDIO)

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