地球とよく似たタイタンの大気現象

【2005年5月24日 NASA News

土星探査機カッシーニによる新たな観測によって、土星最大の衛星タイタンの厚い大気の様子が明らかになった。有機物が豊富で、生命誕生以前の地球と同じ化学反応が起きていた可能性を示唆している。

(土星探査機カッシーニが撮影したタイタンの画像)

土星探査機カッシーニが撮影したタイタンの画像。(左)人間の目に映る姿とほぼ同じ画像、(中央)近赤外線で捉えた地表の様子を示すモノクロ画像、(右)赤外線及び可視で撮影した画像を合成し疑似色をつけた画像(緑が地表、赤や青が大気の姿)。クリックで拡大(提供:NASA/JPL/Space Science Institute)

「今回の観測結果から、もはやタイタンは、空に浮かぶ点などではなく、地球同様に複雑な世界であることが明らかになった」とNASAの観測チームリーダーは語っている。地球で起きている「極渦」と呼ばれる現象が、タイタンでも発生している証拠が観測されたのだ。極渦とは、南極大陸を渦のように囲む偏西風で、南極周辺の大気をより緯度の低い地域から孤立させている。これは次のような過程でオゾンホールへとつながる。

南極が冬を迎える数ヶ月の間、地軸の傾きによりまったく太陽の昇らない極夜が続き、極渦により低緯度の暖かい空気が入ってこられないため気温が著しく下がる。これにより成層圏内の水蒸気などが凍って極域成層圏雲と呼ばれる固体微粒子の雲が形成されるのだが、普段は化学反応を起こしにくい塩素化合物が、微粒子の表面では塩素分子に分解される。春になると太陽光により塩素が解放され、直接オゾンを破壊するのだ。

タイタンの回転軸も地球と同じように傾いているので、極地方の冬の夜は長い。しかも土星は太陽の周りを30年かけて公転するので、冬自体、地球でいうところの何年もの間続く。北極地方は、今初冬だ。NASAの観測チームは北極と赤道の間に大きな気温差があることを突き詰め、しかも有機分子の濃度が濃いことを発見した。このようなことから、タイタンの大気にオゾンは含まれてはいないものの、「極渦」が存在し、オゾンホールがつくられるのと同様、複雑な化学反応が起きていると考えられている。

タイタンの大気の98パーセントは窒素、残りはほとんどメタン。上層大気まで昇ると、太陽光により反応し、重い有機分子(プロパン、エタン、アセチレン、シアン化水素など)がつくられる。タイタンをオレンジ色に見せているのも、これらの分子だ。冬の間、成層圏の空気は冷えて沈む。さらに、北極周辺の大気が孤立していることで、観測されたように重い分子が蓄積したと考えられる。

オゾンホールの形成過程に見られるような地球との類似性が今後も観測されるかもしれないが、専門家は、むしろタイタンの特異性の発見に期待を寄せている。自然とは、われわれの予測をはるかに超えるものであり、専門家の期待通り、タイタン独自の現象や新たな特徴の発見が報じられる可能性も意外と大きいのかもしれない。

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